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2026/3/17

AI、データ時代のルール設計・政策のあり方ー2025年プロトタイプ政策研究所全体会合レポート

    プロトタイプ政策研究所の2025年全体会合(2025年12月4日開催)では、所長の落合から政策提言等の成果が報告され、続いて各メンバーが2025年に取り組んだテーマと課題感を持ち寄った。AIが人の関与なしに動く局面の責任設計、法務・リーガルテックの変化、観光・教育・地域人材といった分野別課題、政策形成プロセスの刷新など、横断的な視点で「次に何を描くか」を掘り下げた。本記事はこれらの議論の一部を整理したレポートである。

    2025年プロトタイプ政策研究所・活動報告

    まず、2025年のプロトタイプ政策研究所の活動報告が所長の落合からなされた。以下はその抜粋である。

    ●政策提言等

    2025年は上記の意見書等を提出した。特に5月に内閣府規制改革推進会議本会議に提出している「規制改革におけるEBPMの推進に向けたメモ」については、2024年の11月12日内閣府規制改革推進会議本会議(第21回)に提出した「供給制約社会における規制改革メモ」に続けて具体的手法として提示したものであり、同メモ提出以後は政府関係者のなかにも「供給制約」というワードが増えたようにも思われたため、一定の影響を与えられたのではないかと感じている。

    ●報告書等

    当研究所所長の落合をはじめ、多くの研究会メンバーも関与している「アジャイル・ガバナンスの社会実装に向けた「規制・制裁・責任の一体的改革」GOVERNANCE INNOVATION Ver.4(以下、Ver.4)」が公開され、当研究所が公表した提言についても引用がなされている。Ver.4については、本会議に出席していた研究会メンバーでVer.3までの執筆に主導的立場だった羽深宏樹から「Ver.4については一般向けというよりは、執行当局者や裁判員の方などへ向けた内容が中心だったように思う。このペーパーに限らず、アジャイル・ガバナンスに関する政策はすでに色々なところでなされている。一方で、このペーパーを作り始めた際には『10年先、20年先の政策を描こう』とスタートしたが、その世界は2,3年で到達してしまった。この後の10年先についても描いていけるようなプロジェクトになれば」とのコメントがあった。例えば完全に人が関与しない人工知能の挙動に関する法制度の検討を行う、などの動きが必要になってくるとの指摘もあった。

    ●プロジェクト

    京都大学と連携を深めている。2025年度人工知能学会全国大会に採択された「大規模言語モデルによる専門家のシミュレーション」は、研究会メンバーの稲谷龍彦(京都大学大学院法学研究科教授)の受け答えを人工知能で再現するというものだった。稲谷からはこのプロジェクトの成果につき「欧米のAIツールであると欧米の規範的な考え方をAIに学習させていることから、そのバイアスとは異なる、自身の思考に近い挙動や返答をAIに対応させることの難しさを感じた。」と報告した。

    また、京都大学大学院法学研究科附属法政策共同研究センターとの連携協定を結んだため、上述の人工知能に関する研究も発展させていければと考えている。


    ●セミナー等の登壇

    また、2025年に実施した共催セミナーやシンポジウム等は以下の通り(一部)

    2025年の活動の振り返りと今後注力したいポイント(順不同、敬称略)

    南知果

    今年は、公務員3年目の方々に対する研修講師を担当した。民間の意見を取り入れながら政策立案をする現場にいる公務員であれば民間とのつながりの重要性が伝わりやすい。一方で、そうした分野とは縁遠い部署にしか所属経験のない官僚の方には実感が伴っていないように思われた。国の将来や政策形成の在り方について考える機会、場の提供として、小規模でも継続して勉強会などを行う重要性を感じている。また、政策形成においては官僚の方々が要であることから、組織内外で活躍できる仕組み作りについても提言していければと考えている。

    瀧俊雄

    2月のデジタル行財政改革会議の内容をもとに、クレジットカードAPIの検討を行っている。新しいトピックとしては交通データをAPI化することにハードルが高い環境がある。近年クレジットカードのタッチ機能で電車へ乗れるようになってきており、乗車記録が残っているが、そのデータの取得においては鉄道各社の同意が必要になっている。それらを共有可能な財にしていくのが新しい課題だ。

    片田江由佳

    福岡地域戦略推進協議会で事務局をしている関係から、人材の分野に注力して取り組んでいる。特に、中長期、すなわち産業構造の変化や社会構造の変化をうけてどのように人材をとらえていくかという点を議論している。FDCは国の動きと地方の動きを連動、補完しあう点を意識している団体でもあるので、このテーマについても日本全体の議論と福岡なりに新しく突破できるところはどこなのかという観点から取り組んでいる。

    小島武仁

    マッチング理論やマーケットデザインを研究していく中で、今年動きがあったものとしては教育分野(高校入試における単願制度)。興味を持っている都道府県の担当者と折衝ができる段階になった。また、民泊や観光の分野でも、マッチング理論が効果を発揮しそうなフィールドがあると感じている。政策目的と規制がミスマッチになっている分野でもありそうなので、ぜひ協働していきたい。

    稲谷龍彦

    AI及びフィジカルAIによって様々な社会活動が自動化され、あるいはAIとの協調によって行われていくというフェイズに差し掛かっているので、これらの局面における法のあり方をきちんと理論的に整備すべき時期に来ていると感じる。AIが不具合や事故を起こした際の民事責任について議論する検討会に出ているが、AI技術の現状について解像度が高くない議論も散見される。自動運転についてかつて生じたのは、政府の報告書では自動運転車が公道を走るまでに20-30年程度かかると予測されていた一方、第一線の研究者はもっと早く実現すると予想していたというギャップであり、それが法制度整備を遅らせてしまった感は否めない。最先端の研究開発の実情に即して、法制度の望ましい姿について生産的な議論をする必要があるだろう。

    松尾剛行

    2024年は、2023年の「法務省ガイドライン」公表を前提にAIリーガルテック協会が「リーガルテックAIに関する原則」策定に向けて対応をし、2025年1月に公表された。2025年はAI関係の書籍も執筆しており、『生成AIの法律実務』『ChatGPTと法律実務 増補版』『IT・AI法務のゴールデンルール30』等が出版された。2026年はそのような経験を公益のために活かしていきたい。

    羽深宏樹

    今年は大きく2つの関心事がある。一つはAIの可能性と現行法制度の限界について。今や多くの領域で平均的な人間のプロフェッショナルよりAIが良いパフォーマンスをするという時代になってきている。今の法制を維持したままではAIの持つ可能性を人間の能力の中に閉じ込めてしまうことになりかねない。AIのリスク評価を法制度の中できちんと議論できるかどうかがポイントだと思っている。二つ目としては、AIはもはや特別な領域ではないということ。「AIはAIの専門家がやる」ではなく、全ての法領域がAI関連法となることを意識すべきだ。この点は、5月に東京大学法科大学院ローレビュー19巻に掲載された、論文「『AI規制論』のコペルニクス的転回―現在の一般的規制モデルの構築に向けて―」で論じた。

    渡部友一郎

    リーガルテックの進展に伴い、法務の役割は『守りの管理』から『イノベーションの加速』へと進化すべきだ。近著『39の金貨 成長を叶える 組織内弁護士の教科書』で提唱した通り、現代の法務部門には、事業リスクを正しく見極め、社会実装を共創する力が求められている。私は、現場の熱量を削ぐことのない『リスクテイクできる法務人材』の育成を通じ、日本企業の競争環境の整備に本年も取り組んでいく。また、今後はプロトタイプ政策研究所において、2030年の観光立国目標(訪日客6,000万人・市場規模15兆円)を見据えた『観光』の法的な整理を通じて、デジタル化や産業の成長を支える一貫した法的グランドデザインを提示することで、新産業の持続可能な発展に寄与していきたいと考えている。

    前田恵美

    先ほど話題に挙がった前例主義については、仕組みを変えていくことや、若手への勉強会などの必要性を感じた。また、例えばAIに関する理解については扱っている内容が異なるため一定のばらつきがあって当然であるものの、現時点でAIは様々な分野で広がっているので、省庁横断的に底上げをするような活動が必要なのではないか。

    宮田洋輔

    政策の検討プロセスが正しい事実関係とエビデンスに基づいて議論が進められるように提案できればと考えている。審議会が単なる利害調整の場になってしまっていないか、あるべき姿を模索できるような会議体を構築できるように模索したい。

    →(羽深宏樹)EUではもう少しオープンにいろいろな専門家を集めて議論させている印象がある。また、英国では有名大学にある程度の予算をつけ、その専門の研究チームの理論的な整理をさせてからポリシーメイキングに移るということもしている。日本でどこまでできるかは不透明だが、市民あるいはアカデミーに関与してもらうような仕組みを検討しても良い。

    →(稲谷龍彦)上述の英国の制度は、自国のために同研究チームが提供できる最高の知見を提供するという形をとっているともいえる。一方で、日本は戦後のある時期までは官僚が特に選ばれた専門知識を持つ者としてポリシーメイキングの場で機能していた部分がある。そういった時代ではないので、今の時代に即したポリシーメイキングの在り方、作り方を検討していくのも重要なのではないか。

    成原慧

    羽深先生が指摘していたように、AIが様々な場面で使われるようになると「AIガバナンス」それ自体を切り離して論じていく意義は薄れていくように思われる。その場合、それぞれの場面に即したガバナンスの在り方を検討していく必要があるが、どのような区別、区分でしていけばいいのかという点が論点になるだろう。例えばAIが学習データとして取り扱うデータが著作物として保護されている場合に、メディアやクリエイターの反発が見られる問題については、著作権法、AIガバナンス、メディア法など、複数の視点からのアプローチが考えられる。

    また、ヨーロッパ、韓国、イギリス等の研究者の方とお話するなかで、新しい法的問題に対する各国のアプローチが異なることが明るみになり興味深く思った。単純化して例を挙げると、イギリスはすでにある個々の法制度を改善するというピースミール・アプローチをとる一方で、他のヨーロッパ諸国では体系的な新しい規範を作ることが多く、一方で韓国では現在議員立法など立法が活発になってきている。日本ではイギリス的なピースミール・アプローチに近いところもありながら、役所が中心となって既存の法律の解釈を明確化、修正するという方法を取る傾向があるように思う。

    また、リスクへのアプローチについては、何が守るべき価値なのかという議論なしに、事実ベースだけではリスク評価はできないのではないかと考えている。

    所長・落合孝文

    2024年年末にデジタル行財政改革会議第1回データ利活用制度・システム検討会にて提出をした資料を基に議論している内容として、以下のような論点がある。

    ・データを入手しやすい環境に整えていくことの重要性(データを整えることについて、業務の中で意味のある形で標準化していくことが重要)

    ・データのハブ、アグリゲーターなどの標準化をどうやって行っていくか

    ・データの網羅性、正確性をどの程度追及するのか

    ・静的データだけではなく、動的データをどうとらえるのか

    ・IDや署名について(マイナンバー、ベースレジストリ)トラストアンカーをどうするか 等

    ・データアクセスをどのように整理していくのか(条件、公的支援、認証などの課題)

    ・データ提供者とデータアクセス者の競争について

    ・データ当事者間の競争や、優越的地位の濫用に関する対応

    副所長・谷崎研一

    クライアントの銀行や証券会社などでも、生成AIの利活用について(金融庁からの指導もあり)自社の社内規定を準備したうえで、前向きに取り組む姿勢が現れてきている。他方で、知的財産権侵害の問題やデータ所有権の問題に対する、コンプライアンス部門やリスク管理部門の評価も慎重にならざるを得ない結果、フロントの意向との調整に手間暇を要するケースも見聞きしており、そのような場合に、リスクベースアプローチ的な考え方ができないものと感じている。イノベーションに対して、新たな視座でどのようにリスク管理していくかを決定していくプロセスが極めて重要と感じている。

    主任研究員・樫尾洵(当時)

    宮田氏の指摘された政策の検討プロセスの在り方については、実体験として感じていることもあり、同じ思いを持っている。また、観光に法務視点が必要という点、AIと著作権の関係など、各先生方のご指摘は先端的であり、今後の議論も大変楽しみに感じた。

    主任研究員・荏畑龍太郎

    2025年前半はローカルルールと規制改革というテーマで宮田様はじめプロト研メンバーの先生方のご指導をいただいた。今後はAIやデータに関する分野のローカルルールの調査、自治体へのヒアリング、内外勉強会などの企画を通じ引き続き取り組む予定としている。後半は規制改革制度の普及に向け雑誌寄稿などに力を入れた。最近、グレーゾーン解消制度をはじめとする規制改革制度の運用が変わってきた印象があるので今後も動向を注視していきたい。


    この記事に関連する研究会メンバー及び研究員

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