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2024/3/29

政策提言の障壁を下げ、社会を変える存在に【瀧俊雄/プロトタイプ政策研究所メンバーインタビュー】

    設立当初からのプロトタイプ政策研究所メンバーである瀧俊雄さんは、金融システムの観点から社会課題に取り組まれています。良い意味で「こんな恐ろしい団体ない」とプロトタイプ政策研究所を評する瀧さんに、その理由や今後の政策提言、研究所の展望を伺いました。

    【瀧俊雄 プロフィール】
    1981年生まれ。2004年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券株式会社に入社。株式会社野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学MBA、野村ホールディングス株式会社の企画部門を経て、2012年より株式会社マネーフォワードの設立に参画。内閣官房 デジタル行財政改革会議有識者構成員、内閣府 規制改革推進会議専門委員(スタートアップ・投資ワーキング・グループ)、一般社団法人電子決済等代行事業者協会 代表理事、一般社団法人Fintech協会 アドバイザー、経済産業省 認知症イノベーションアライアンスWG 等メンバー。

    日本の金融システムが嫌いだった

    ー自己紹介をお願いします。
     マネーフォワードの瀧と申します。元々野村證券で研究者をしていたのですが、その後マネーフォワードに創業者の1人として参画しました。2012年の会社設立時に出資し、取締役として組織を作る仕事をしていました。しばらくは事業と組織を作ることに専念し、社外に対して発信する仕事はしていなかったのですが、2015年のマネーフォワード Fintech研究所の設立以降、徐々に政策に絡む仕事も増えてきて、今はマネーフォワードのグループ執行役員 CoPA(チーフオブパブリックアフェアーズ)として活動しています。ほかには、電子決済等代行事業者協会という、銀行サービスに関連する自主規制機関の代表理事を6年ぐらいしていますし、いろんな団体で落合先生と理事を務めさせていただいたりもしています。

    ー専門分野は金融業界ということになるのでしょうか?
     自分にハッシュタグをつけるとしたら、「Fintech」ですね。語弊を恐れずに言うと昔から「お金の概念」が好きで、デジタル時代におけるお金のあり方についての専門家になりたいと思って活動しています。

    ーなにかきっかけはあったのでしょうか。
     「お金の概念」については、小中学生のころから興味があった気がします。
     海外に住んでいたのですが、小学6年生で帰国した際に、文化の違いに戸惑ったんです。言語の壁で会話ができないことに加えて、日本では何か隠しているようにものを言うとか、本音をあまり言ってくれないということに、一時期苦しく思っていたんですよ。そんな時に、お金を前にすると人間は正直で、どの国でも、どんなに性格が違っても、どんなに悪い人でもお金に対する欲求は似通っていると気づいて、「お金って面白い」と思いました。これが出発点ですね。
     もう一つ、高校生の時に「受験が日本を壊している」と本気で思っていた時期がありました。日本では受験がゴールになってしまって、「良い学校に行けば、良い就職先が待っていて安泰」という神話のもと、大学に入った後に勉強しない怠慢な人間が多いと感じたんですよね。なぜそんなことが起きてしまうか考えてみると、日本の金融システムが負の要因となっていると思ったんです。どんな産業でも、お金を貸し続ければ生き続けることができてしまいますよね。実際はそんなに単純な話ではないですが、1990年代後半の日本経済では特にそのような傾向が見えて、「日本の金融システムは嫌いだな」って思ったんですよ。もっと伸びる産業に人もお金も行きわたるような社会であれば、もう少し社会は明るいし、社会人になった後にも勉強し続ける人が増えるはずなんです。

    ー高校生でそこまで深く考えていたとは驚きですね。
     勉強が苦手で、受験が嫌だったからかもしれません(笑)。ただ、既存の金融システムが良くないことは、私の中で確信に近いものがありました。既存の金融システムは、銀行中心ですよね。だから銀行を何らかの形で変えることで金融システム全体をよりよくできるような活動にキャリアをかけたいと思って、銀行に対する最大のアンチテーゼである証券会社に入社したという、そんな経緯でキャリアをスタートさせました。

    ー金融システムを変革するという目標に向けて、既に何か達成されたことはありますか?
     印象としては、自分が達成したいことの2割ぐらいは実現できています。それこそ「一生かかっても無理かもしれない」と思っていたことについても、意外と達成できた気がしています。マネーフォワードを立ち上げたこともそうですし、昔に比べるとベンチャー企業はかなり資金が調達できるようになってきていていますしね。    
     次に達成したい課題解決は、「社会を変革していくこと」です。これまでは金融を「数ある専門分野の一つのジャンル」くらいに思っていたんですが、実際は「現実世界の写し鏡」のようなところがあって、社会や経済の動向に密接に関連しています。現実社会がいい方向に変わらないと金融も変わらないので、金融の持つ課題の答えは基本的に金融の外にしかないことが多いんですね。つまり、金融の課題に対する解決策は、金融の枠組みだけでなく、広範な社会や経済の要因を考慮する必要があると思うんです。
     これまで達成してきたことと比べると実現のハードルは高いですが、そろそろそういう課題とも向き合い、社会をより良くしていかなければならないと考えています 。

    ー苦労したことはありますか。
     マネーフォワードのCoPAに就任し3年になりますが、持続的な対話が自分の期待値で、目標であり、かつ難しいところだと感じます。渉外活動やロビイングでも、自社の利益だけを言う人には、いまどき誰も耳を傾けてくれないんですよね。けれども、将来の公共的に、社会的に役に立つという説明ができれば、より一般的な価値を持つ政策になるんです。
     PA(パブリックアフェアーズ)は新しい表現でわかりにくいですが、簡単にいえば「パブリック」は「公共・みんな」、「アフェアーズ」は「仲良く」ということなんですよ。市場競争と聞くと、仲が悪いという印象を持つと思うんですが、みんなと仲良くすることでみんなの価値が広まるという側面があるんです。つまり、「あの人とは意見は合わないけど、話しておく価値がある」と思われる必要があるんですよね。
     もちろん、そうは言っても折り合いがつかない場面もあります。けれど、「この人と会話を継続することは、自分の人生とか組織、社会の価値に繋がるだろう」と期待されるような状況を作ることが重要な気がしています。そう思ってもらえる活動を続けて、究極的には、「みんなが仲良く」できることを目指したいと思っています。

    プロトタイプ政策研究所との出会い

    ープロトタイプ政策研究所に入られたきっかけは何だったのでしょうか。
     世の中はすでに洗練されているのですが、もっと良くなる余地があるはずだと課題に思う部分もあります。将来的に日本経済が人口面では縮小していく中で、社会の機能を保つための希望としても必要な組織だと思い、加入しました。また、クロサカさんや宮田さん、小泉さんといった各領域で専門性を持って真摯に政策を考えている人たちの中で刺激を受け、自分の意識をアップデートしたいと思ったという背景もあります。
     個社だけで活動していると、どこかでプレッシャーなどに負けるかもしれないという危惧があります。けれども、近しい問題意識や悩みをもつ人とつながれる場所があることは、時に立場が孤独になりがちな仕事をしている人ほど重要なんですよね。
     また、このような場に参加することは、現代社会が求めているオープンな議論の様式だとも思います。その意義自体をもっと広く知ってもらい、社会の法律や制度は与えられるものではなく、不便なら変えられるもの、または新しく作れるものだという認識が浸透していくことが重要だと思っています。

    ープロトタイプ政策研究所で印象的だった活動はありますか。
     先日、公共放送の在り方について議論をした際に、良い意味で「こんな恐ろしい団体ない」と個人的にとても印象に残りました 。
     広範囲にわたる本質を、タブーなく切り込んだ議論だったんですが、それを数時間で、あくまで建設性を持って、みんなで回収しきったのは感動しました。落合先生やクロサカさん、宍戸先生をはじめとする全員が考えていることを率直に言いきれたのは、心理的な安全性を感じていたからだと思います。平和にやり過ごしたいけど、一石を投じないと議論がもっと歪むと考えていたことが、あの場で様々な角度から包括的に取り上げることができて、解決できた感覚があります。今のところ、やはりこの議論がプロト研が自分にとって出し切った最大のインパクトあるアウトプットだったなと思いますね。

    ー今後の展望について教えてください。
     政策提言の障壁を下げることができればいいなと思っています。提言は第一人者が専門分野を突き詰めてするものだと思われがちですが、実際は誰でもできることなんですよね。提言って難しいことのように見えて、例えば、駅で挨拶をしている政治家に「子育て支援を増やしてほしい」というだけでも立派な提言なんです。我々も難しい組織に思えるかもしれないですが、プロトタイプ政策研究所のメンバーをシェフに例えると、「中華にするより、イタリアンにして出したほうが良いかも」という感覚でどう加工するか考えている組織です。
     いかに有益な法律や制度を重視して、その他の部分を改善していくかが重要で、そのような変化をもたらすことで、省庁で働いている人たちや社会をより良くしたいと思った人などが、「自分たちではできないけど、プロトタイプ政策研究所に持ち込んだら社会を変えられるかもしれない」と希望を持ってもらえる組織になればいいなと思いますね。
     そんな組織になって、我々が政府の会議で提言を提出して、実行まで見届けるみたいなことができていくと、かっこいいなと思っています。

    (写真:福知佳那子/インタビュー・編集:降籏捺妃)

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