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2024/2/28

【座談会レポート】イノベーションの舞台裏。 落合孝文×小泉誠×宮田洋輔が描く新プロジェクト 

    今回の座談会では、プロトタイプ政策研究所の3人のメンバーがこれまでの研究やプロジェクトの振り返りを通じて、今後の方向性や新たなテーマについて議論しました。

    【参加者】

    落合 孝文
    渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 プロトタイプ政策研究所所長・シニアパートナー弁護士

    小泉誠
    デジタルリテラシー協議会 事務局/一般社団法人日本ディープラーニング協会 プロジェクトアドバイザー/慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究所 研究員

    宮田洋輔
    株式会社ポリフレクト代表取締役社長


    デジタル時代の鍵、スキルの可視化

    落合孝文(以下、落合):プロトタイプ政策研究所ではこれまで、主には提言を出したり、勉強会を開催したりなどといった活動をしてきました。さらに、お二方は様々なところで、トレンドのテーマについて登壇されたり発表されたりもしてきております。
     今回は、最近のホットなテーマだけでなく、「こんなテーマをやりたいと思っている」「こういう活動があったら面白い」など、今後の展望・アイデアについて議論できるといいと思っておりますが、いかがでしょうか。

    宮田洋輔(以下、宮田):永遠に実現しないかもしれないのですが、前からずっと、デジタル技術の進化によって、個々の能力や技術が客観的に評価できるようになれば、資格制度の必要性がなくなる世界がくるのではないかと考えています。
     まず、資格制度や試験合格後に一生その資格を維持できるという制度が時代にそぐわなくなってきていると感じていて、例えば医師の場合、医師の資格を持っていたとしても、最新の医療知識や技術を持っているとは限らないかもしれません。一方で、医学に深い理解がありながらも特定の資格を持っていない人も存在するかもしれません。
     デジタル技術の進化によって、個々の能力や技術が客観的に評価できるようになれば、高いクオリティが担保され、適材適所の社会が築かれ、適正な能力を持った人が、適正な職務を果たすというか、役割を果たせるような世の中になってくるんじゃないかなと思います。また、そうあるべきなのではないかとずっと考えているんですよね。そうすると事業法の問題や、独占業務というような問題が一気に解決できる社会ができて、しかもクオリティも担保される社会になって良いのではないかなと思いますし、より効率的で公正な社会が実現され、新しい可能性が開かれると思います。

    小泉誠(以下、小泉):もうこれは、一緒にやりませんかっていう話だと思います。
     まず、「労働市場改革」とは大まかに言ってもその中身の要素が見えにくいと感じますが、その中で特に重要なのは「アイデンティファイ(本人確認)」「サーティファイ(スキルの保有証明)」「ベリファイ(履歴確認)」の三つの要素だと考えています。現在ほとんどの資格は「あなたはこの試験に合格したことを証明します」ということが試験を受けてかつ主に紙で証明されているわけですが、アナログなのでコストがものすごくかかるんですよね。何をもって理解しているとか、それができるスキルがあるということを「サーティファイ」するコストは特にすごくかかる。だからデジタル化を進めようと、eラーニングからオンラインテストになって、最近は生成AIを活用して対話するような形でのテストができるようになりつつあるという潮流が生まれているんです。
     サーティファイするのがなせ大事かというと、社内評価などにおいても講習やペーパーテストと同じように「ここまでやれたらさすがにこれも分かるだろう」「この仕事ができるなら類似の仕事ができるはずだ」「これさえできていれば応用が利く」といったように評価していることは良くあることで、信頼できる職務履歴を基に評価したりしていますよね。このように、テストだけじゃなく職務履歴等も含めて色々なものをサーティファイして、スキル証明としてデジタルに労働市場で流通するコストを下げられると本当は融通が利くことがもっとあるはずです。こういったことが技術が進歩してできそうということは分かっても、資格やスキルのデジタル化がいまだに紙の証明書をデジタルバッジ化する議論が中心になるのは、デジタル化を「ベリファイ」の部分だけを切り取って行っているからなんですよね。
     「アイデンティファイ」「サーティファイ」「ベリファイ」のそれぞれで必要なことを分けて考えて、「ここの部分だけは先にデジタル化しよう」とか、「ここの部分はもう少しやり方を考えてから進めよう」とか、意外と検討自体はできてしまうのではないかと思いますよ。僕は経済産業省GXリーグ内ワーキンググループの座長をやっているのですが、実はGX人材ではこういうことが先にできないかと考えていてGX人材のジョブとスキルの標準案を作り初めたんですよ。それに通じる話だと思うので、今宮田さんがおっしゃったところはとっても大事ですよね。たぶん変えられると思うんですよ。課題感大きいですよね。

    落合:直近でも事例はあるように思います。宮田さんが得意そうな領域でいうと民泊の管理者は宅建業者でもいいんじゃないかという話もありますし、介護や医療の例でいうと、全てとは言えないとしても、看護師が注射したり、機器を当てる、測定するといったことでできることは多いはずだと思うんです。権限の範囲の染み出しをする、いわゆるタスクシフトで権限を限定しすぎなければ、もっとそれぞれの発揮できることがあるのではないかと思います。
     たしかに、全部を一気に変えるのはまだ難しいですが、デジタル社会形成基本法等の一部を改正する法律に繋がったデジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)の作業部会でも、性能規定化を進める議論をしています。必要な法目的を満たすという手段を義務的に特定するのはやめて、達成を求める目標を設定し、手段は問わないようにしていこうとしています。今までは能力を担保する方法の一つが、”ある測定方法”で作業を行って、その結果が出る場合に限って合格としているということだったんです。資格の場合であれば、資格試験に合格することを条件にするという方法がよくある方法です。
     一方で、デジタル臨調での議論によって、今まで人の目で確認しなければならなかったことも、全般的にデジタルで行うことになり、例えばトンネルの目視確認は車で動画撮影であったり、ドローンで撮影して確認する方法も可能になりました。技術的にはできる領域は広がってきているけれど、組織の全般や人の行動全般を、一塊として全部代替できるという実務的なソリューションまでは広がってないので、まだ難しいかもしれないですが、少なくともパーツごとには、デジタルトランジションが進められるようになっており、今後の仕事の方法も変わっていきそうですね。最初に述べたタスクシフトでも、元々の資格のフルセットの能力は必要なくても、この部分を手伝うだけであれば、必ずしも旧来の独占資格に限らなくても業務をできるようにすることが合理的なのでは、という議論につながります。

    宮田:もし実現することができたら、社会がドラスティックに変わっていくんじゃないかと思うんですよね。いきなりありとあらゆる資格や業種で適応されるのは難しいと思いますし、本当にその能力やスキルを測れるかどうかという問題もきっと永遠に残り続けると思うんです。ただ、落合さんがおっしゃったように、どんどん性能規定化されているという流れ自体はあるので、実はこれも同じ要領で見直せますよねということで、より他にも波及していく可能性がありそうだと思います。
     それから、もうひとつ民間側が気をつけるべき点として、性能規定化をしていったときに民間側が、「もっと具体的に決めてくれないと、僕らリスク取れませんよ」というような姿勢を取って、逆に細かい手順をか決めてもらうみたいなことを求めると、せっかく性能規定化したものの流れに逆行してしまうので、ある程度のリスクをちゃんと民間が取ることも必要ですね。

    落合:そうですね。行政ができるソリューションとしては、先ほど例に挙げたようなインフラ点検でいうと、国交省が準備している技術カタログマップなど、非拘束的にカタログにして公開するという方法がありました。デジタル庁は先程の一括法と合わせてテクノロジーマップを整備していますが、同じように非拘束的なものです。則りたい人は則る形を取ればよくて、必ず従わなければならないということにはならないので、今ある方法の中では、制度的には性能規定化プラス非拘束の事例集ということが比較的やりやすいのかなと思います。さらに攻めていってほしいという気持ちもあるので、グレーな部分の判断について、我々も引き続き議論していかなければなりませんね。

    小泉:この議論の内容を一つの方法として、こうしたことに対する法改正の今後のやり方のパッケージにはできないですかね。というのもこの議論を以前は、自然言語で書かれている法をいきなり機械言語のような新言語には変換できないという法とコードの関係でも議論していたじゃないですか。「このような基準で、このように作られたアルゴリズムで、こういう結果が出た場合はいいとする」ということを先ほどおっしゃっていたと思いますが、グレーゾーンだとかそういうものも含めてワンパッケージに考える必要がある気がします。
     先ほどの「サーティフィケイト」の話に戻りますが、デジタル化することは絶対にこれから伸びていくはずです。デジタル人材を例にすると、採用で探すのがとても難しく優秀なエージェントに人力で良い人材を見つけてもらうしかない状況になっているので、結果的に大きなコストがかかっていてとても課題が大きい。また担い手の必要性が高まっているのに、国家資格のようなガチガチに法で定められて、決められた試験に合格しなきゃなれない職業は、今のままだと受給ギャップが年々広がり続けるという状況になる可能性がある。でも間違いなく近い将来、よく考えたら今の形での試験は必要なくて、こういうやり方で良い、という流れになると予見しています。どのような場面においても今後必要となる「その職務や作業に必要な、知識や技術をどう保有しているかについて、デジタル化によってどのように評価すべきか」ということの考え方と進め方をまとめて提言にするのはどうでしょうか。

    落合:いま研究所で話している内容は、今の政府会議の5年後10年後に建てるべきアジェンダを話しているという感覚です。デジタル臨調や規制改革推進会議は具体的な目標があって具体の規制改革をする集まりですので違いがあります。国と地方の関係も先ほど小泉さんがおっしゃっていたことと、構造が似てくると思います。
     国がシステム整備を引き取って、地方は国の準備したシステムを信頼して、さらにその上で自らが判断して提供するべき業務を実施していく形ですね。国でもコードの方をレビューするべきだと思うので、結局はコードに対するガバナンスという話になってしまう部分はあり、一定の認証まで行うことになります。人のスキルの関係でも線引きをして「この職種はこの業務まで対応可能」とすることが、試験の合格だけでなく、研修の受講といった代わりの手法で認証する仕組みや、業務結果のレビュー、資格者の補助などの枠組みを整備などできれば、規制領域の業務でも、旧来の資格者以外でも一定の質がある人も含めて仕事を頼んだり役割を分担したりしやすくなるのではないでしょうか。

    小泉:そうですね。今後のデジタル化でスキルをどのようにサーティフィケイトするかについては、ITパスポート試験を2009年に国家試験化してやった経験を考えてみてほしいのですが、はじめは受け入れにくい雰囲気があっても、ある程度法に定められてくると受け入れる国民も増えてくるのは事実なんですよね。民間企業のデジタルスキルに関する試験もたくさんありますが、やはり受験者数には大きな開きがある。なんでも民間の自由競争にするのではなく、どの部分を法で定めるかということには依然として重要な役割があると思います。
     試験を実施しているIPAは法に基づいた組織であるのですが、今進めているデジタル人材のリスキリングについてもこの枠組みをどう作るかについても考える必要があります。法とコードの話に照らして話すと、ある程度の基準に則って評価項目は何かということを探っていくということに近いですね。この仕組みについては、先ほどの落合先生の話とは具体的な内容は違うかもしれませんが、結局のところ国が大規模な政策を採用すれば国民は安心して受け入れられるところは事実としてある思います。ただそれに必要なコストは非常に高くて国の能力も限られているので、国と民間が連携して実施することが考えられますよね。そうした場合、色々な民間企業が実施している人材育成や試験について誰が責任を負うのか、どのような基準で選択されたのかといった疑問が生じることになると思うんです。この問題は他の色々な場面でも発生している可能性があり、今後も同様の課題に対処する必要があると感じています。

    宮田:これまでも一応、国で認定制度っぽいものがあったと思うのですが、それとはまた少し違うイメージですか?

    小泉:資格認定制度は環境省では脱炭素アドバイザー資格認定制度をやっていますし、経産省は第四次産業革命スキル習得講座認定制度をやっていますよね。具体的には、カリキュラムの準拠や信頼性のある事業運営者について確認していますが、これらの運営方法は、人の作業によるものなので基準は不明確になりがちで、審査の負担も大きいんです。また民間事業者の講座や試験の認定基準自体も今日の落合先生の話にあった「必要な法目的を満たすという手段を義務的に特定するのはやめて、達成を求める目標を設定し、手段は問わないようにしていこうとしています」というのにはなっていません。そこで、「学習項目」「学習形式」「学習到達度」を国で標準化を行って、それに準拠した講座や試験について民間の「学習方法」と「学習到達度の評価手段(サーティフィケイトの手段)」を認証するような形になると、民間にもっと多様なイノベーションが生まれやすくなり、かつ国の基準に則ったものになる、ということも起きると思います。生成AIによる学習とテストなんていうのもこうすると正しく進化できるようになる。この標準化や認証は人材育成の世界だけでなく、企業での職務においても同様です。
     こういったデジタル化によるスキルや性能規定というようなことで、どの部分を定めてどの部分はイノベーションのポイントを作るべきか、あらゆる分野が同じような悩みを抱えていると思うので、様々なところがまねしたくなるような落としどころが見えてくると、様々なことがぐっと進む社会になるかもしれませんね。今後もプロトタイプ政策研究所で議論を進めて、提言など形にしたいですね。

    【編集後記】
     最後まで読んでくださりありがとうございます。
     番組制作をしていた経験を踏まえて私も「スキルの可視化」を考えてみました。番組制作は非常に多岐にわたるプロセスから成り立っており、これを的確に言語化することは容易ではなく、転職を考える際には、自身の経験やスキルをうまく説明できるか不安でしたし、会社が求めるスキルとのマッチングも難しいと感じていました。座談会を通じて、スキルの可視化がキャリアアップにおいて重要な指標となり、企業とのミスマッチを減らす助けになる可能性を感じます。これが進むことで、資格職業だけでなく、私が経験した番組制作など、他の業種でも役立つ技術になるでしょう。
     座談会の議論は難しい部分もありましたが、プロトタイプ政策研究所の有識者たちは未来に向けてどのような視点を持っているのか、また方向性が確定した際のスピード感を感じることができる貴重な機会でした。

    (編集/降籏捺妃)

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