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2024/12/10

人口減少社会での規制改革メモ【プロトタイプ政策研究所因島合宿レポート(2024年7月5日)】

    プロトタイプ政策研究所は去る2024年7月5・6日に広島県の因島にて、合宿を行いました。合宿では、様々な社会課題に対して活発な議論がなされました。本記事は1日目の議論の議事録(要旨)です。

    本記事「人口減少社会での規制改革メモ」の議論をもとに、当研究所所長の落合孝文が24年11月12日に規制改革推進会議本会議にて「供給制約社会における規制改革メモ」を提出しました。

    また、同「災害に関する議論」を踏まえ、24年11月26日内閣府規制改革推進会議第2回 地域産業活性化ワーキング・グループで、当研究所所長の落合孝文が「不動産の所有者探索の抜本的迅速化を通じた地域経済の活性化について(意見)」「被災地における迅速な復旧・復興に向けて(意見)」と題する意見を提出しました。


    ●人口減少社会での規制改革メモ

    >本質的課題の特定

    落合 デジタル技術の導入に関する規制の整備だけにとどまらず、今の日本が直面する人口減少などの課題も踏まえ、社会構造が変化する中で、どのように規制の見直しを進めるべきか、概念整理をしていくことが重要であると考えている。このような観点で人口減少社会における規制改革メモを作っていきたいと考えている。その主要な発表の内容は次(引用線部、以下同じ。)の通りである。

    総人口及び生産年齢人口の減少の中、国民生活に必要なインフラ、サービスを維持するためには、一人あたりの生産性向上が必要であり、そのためにはイノベーション(知識)の社会的蓄積を推進し、資源やテクノロジーの効率的、効果的な活用を通じて供給力の維持・向上を図ることが不可欠である。特に情報通信技術の発展は著しく、適切な規制の設定や見直しを通じて資源の有効利用を図ることと併せて、インフラ・サービス提供を持続可能なものとするべく、効果的に利用されるべきである。同時に、テクノロジーの継続的・飛躍的な向上に向けたR&D投資を産官学でより一層積極的に推進するための環境整備を進め、R&Dの結果を効果的に利用できる仕組みを整備することが必要となる。

    國峯 現実の政策課題としては、どちらの声が大きいかで政策が決まっていき、こういうロジカルな論理が全く議論で通用しない状況になっているのが難しい。本質はまさにご指摘いただいた内容だと思う。

    データや情報技術を活用した新事業、新サービスを阻む規制を見直すべきといった表面上の課題のみによった場合には論点の最終的な解決に至らないことがある。このため、規制改革推進会議において議論の際には、次の本質的課題に繋がる各項目を整理して、関係省庁に提示することが必要と考える。

    ・個別のテーマにおける直接的・個別的な課題に加えて、規制改革により解決すべき本質的な課題を明確にすること

    ・サービス供給が困難となる場面を具体的に特定し、今後供給制約課題が存在することを踏まえるとさらに課題が拡大することを議論すること

    供給制約社会においては、インフラ・サービスの持続可能性を確保しつつ、そのサービスの需要者目線での改善を図る余地を確保することが重要になる。このような点を踏まえて、規制改革推進会議のWGでの議論の際には、関係各省に次の各項目の検討を求めることで、今後の技術や供給制約が強まることを踏まえた、本質的課題の解決に向けた取り組みがなされているか検証することが適切である。

    ・対象となる規制が保護する法益の内容と、デジタル化が進展しつつ供給制約課題がある現代社会に継続して妥当性を有するか(例えば、株式会社設立の際の定款認証については、太平洋戦争前の定款の原本を紛失する場合に何が定款かわからなくなる、という課題の解決手段が、現代でも公証人の認証によるべきと主張されたが、本当にそのようにしか考えられないか)

    ・対象となる規制が、依然として意義を有する場合でも、デジタル技術の活用、持続可能性があるサービス供給者確保の観点から合理的代替手法が存在するか(例:印鑑は電子署名等による電子的認証手法により代替されうる)が存在するか

    ・対象となる規制・インフラが、サービスの縦割りを求めるものとなっていないか。デジタルインフラ、共通サービスを利用しつつ、協調領域を形成しながら、競争環境の整備を進めることが重要である(例:小規模クリニックが電子カルテを逐一整備することが合理的か、小規模でシステム投資が困難な場合には、デジタル庁が進める標準電子カルテを利用することが合理的ではないか)

    規制改革推進会議において検討すべき課題の優先順位の判断においては、本質的課題の影響大きさ、切迫度、などを考慮すべきである。また、規制改革の対象となるようなサービスについては、従来はエピソードベースで議論され、いわゆるゼロリスクが志向されることが多かったものの、これでは結果として必要なサービスが提供されず、重要な不利益を受ける者が多数生じてしまう。そこで、規制改革推進会議では、ファクトベース、すなわち現行制度におけるリスク、新たな制度やサービスにおいて提供されるリスクを比較衡量していかなければならないし、もちろんそのような比較衡量の根拠となる事実が集まるような体制構築も考えておくべきである。

    落合 実際に規制や政策を変えるということの意味をきちんと分析して、果たして現代的な意味をもっているのか、他の手法で代替できないか、合理的な設計になっているのかを検討すべきである。そして検討すべき課題の優先順位の判断では、本質的な課題の影響の大きさ、切迫度なども考慮しなければならない。アジャイルガバナンスの報告書を延ばしてくると、こういう話になると理解している。技術中立性などを個別場面に落としていくとこんな感じかなというふうに思っている。

    小泉 私自身がタブレット型POSレジの事業をやっていたからというのもあるが、ペーパーにある「小規模クリニック」のようなことは結構ある。今行われている軽減税率対応、インボイス対応は大きな目的があるとしても、最後のラストワンマイルは民間に委ねられている。依然として小規模事業者のpoint of salesのデータは事業者ごとに繋がっていないが、その背景には全体的なグランドデザインなく進んでしまったということがあるように思う。ペーパーのような議論をしていくことが、最終的にプラットフォーム、統計情報に繋がり、そして日本の全体的な、国民のマクロな動きが見えることでスマートシティに繋がっていく、そういう一つの切り口として、事業者側にとってもとても大事なことだと思う。

    落合 羽深先生が経産省を辞められる前に「民間企業にもやってもらいたいよね」と言われていたように、議論として最終的には、規制だけの話ではなくて民間側のアクティビティに反映されていくと本当はいいと思う。

    小泉 ガバナンスレベルを上げたいと思ったら、全体にどうやってそれが社会実装できるかを最初から考えないといけない。

    >規制改革と競争政策

    落合 このように人口減少社会における基本的な規制の考え方を整理をしたが、今後さらに競争法的な視点においても、検討がされることは重要課題であると考えている。まずは、先程まで議論した部分について、先行して公表をしていきたいと考えているが、その後の重要課題としての競争政策についても、以下簡単に述べてみたい。

    供給制約社会における財やサービスの供給については、その参入を可能な限りオープンなものとして多様な形態の担い手が事業活動を行える競争環境を確保しつつ、一方で、事業者間においては、リソースの共同利用や共同調達といった部分的な連携・協調を行うこと(以下、単に「共同行為等」という。)も必要である。

    この点に関し、共同行為等を行うこと自体が競争法に抵触することを理由として事業者が取組みを躊躇しているとの指摘もみられる。このような指摘については、事業者が共同行為等に関する情報を効率的に得られないことから、その適法性に懸念を持ったり判断できなかったりするなどにより、過度に萎縮している面も少なくないと考えられる。競争法は、事業者からの相談に応じて法抵触の可能性を整理しつつも、個別相談に対する考え方として実例がその都度示されるにとどまり、その際の留意点が参照しづらいことが、その背景にあるとも考えられる。そのため、公正取引委員会を中心とする考え方の整理や参考資料等の整備がなされることが、事業者の過度な萎縮を防ぐ上で重要である。

    なお、供給制約課題が存在する中で、競争環境を変化させるための重要な視点としては、下請・委託先事業者や個人事業主等の競争上劣位にある者でも競争上優位にある者との間で十分に交渉できるよう、整理を進めることである。ここでは団体活動における情報共有や団体交渉等に関する競争法上の整理を改めて示すことに価値があると思われる。

    吉井 今の話は引っかかるかわからないという指摘がされているが、グレーゾーン解消制度のようなものはあるのか。

    落合 この分野だと、公取のQ&Aが出ていたりする。それを見ると、こういう場合に共同配送をやっていい、GXを進めるときの共同調達行為をやっていいというのはわかる。グリーンのほうは比較的有名なので、大手企業、経団連に入っている企業は認識しているはずだが、共同配送のほうは知る人ぞ知るような感じかもしれない。グレーゾーン解消制度とは別だが、公取としては「やっていい」と言ったつもりだったりする。

    吉井 グレーゾーン解消制度のように、まだ決まっておらずそれが問題というよりは、実際は結構決まっているのに情報が伝わっていないのが問題という認識でよいか。

    落合 Q&Aも、共同配送だとわかりやすいが、他だと急に同じように読んでいいかわからなくなることもある。新しい理論を作らなくてもよいが、今までの延長線上の話を整理して、一般に利用できる理屈として皆が認識できるようにしておく必要はある。本質的にグレーゾーンにしておかなければ誰かが困るという状況ではないはずなので、もう少し明確にしておいたほうがいいのではないかとは思う。

    吉井 実際にそういったことをやろうとして今できてないのは何が原因なのかを明らかにする必要がある。

    落合 今後の課題についてのコメントであるが、一部先行的な論点とも関連する指摘を頂いたので、先行部分も含めて、論点整理に反映させたい。

    許認可制度等による、自治体単位の地域分割、需要減少の中での人員・事業所配置の要求等の既存の規制のあり方は、競争制限的な効果をもたらす側面があり、寡占化に繋がる可能性も高い。一方で、このような場合においては、多くはテクノロジーの利用も含め広域での事業実施等による、安定した数量の需要に応じる事業を継続できず、寡占化した事業者が縮小均衡し、一方で広域に事業を行う事業者の参入制約ともなり、必要なサービスの安定供給が時間の経過により困難になり続ける。そのため、許認可等の事業の制約について競争環境を適切に整備する方向に整理する他、広域でサービスを提供する事業者も含めて、需要が限定された地域でもサービスを継続するためには、市場が歪められ、競争環境が悪化しないよう留意し、クライテリアを定めつつ、限られたリソースの共同利用、事業者の共同行為を行うことができる事業環境を整備することも考えられる。

    このような点については、今後、供給制約課題が存在する中での競争環境という観点も含めた議論を行っていくため、規制改革推進会議における議論に公正取引委員会の参加を求めるなどして、競争政策上の見解等を聴取しつつ、規制改革の議論を行っていくことが重要ではないかと考える。

    羽深 このあたりの競争法関係もそうだが、やはり全般的にあまりにいろいろなシステムやビジネスが複雑に行き過ぎていて、それに対し政府としてもいろいろなところから散発的に情報が出てきているので、結局どこかで検討したことをまた検討したり、あるいはせっかく検討していたことを誰も気づかなかったりという事態は往々にして起こっている。法令やガイドラインも複雑化しているので、その辺りはここだけの問題だけではなく全般的な論点に当たる問題としてあるとは思っている。

    羽深 ただ、そこを克服できないとなかなかアジャイルガバナンスはできないので、ある程度システム化していく方向にいけるとよい。まだその完成形がよくよくイメージできておらず、多分外国を見てもそこをきちんと克服できているところはないのでは。

    落合 パッケージのごく一部分だけだったら綺麗にやっていることはあるものの、おそらく全体で見ていくとやはり整合性が完全には取れてない。

    羽深 特にデータの話だと、個人情報、競争法、営業秘密が既存の業法規制に上乗せされるがそのあたりは全然解きほぐせていない。しかも、省庁がそれぞれ自分たちの所管する部分で物事を決めて進めようとする結果、相互にやっていることが矛盾する。そういうことは日本に限らずどこでも起きているのではないか。

    國峯 グリーンの独禁法に関しては、相談を受けてガイドラインをたまに見るがそれほど詳しくはない。独禁法の解釈がケースバイケースすぎて、あのガイドラインも「それはカルテルだよね」「これはさすがに大丈夫だよね」といった、当然の中身になっている。ただそれをガイドラインで明確にして大丈夫なのかなという面も考えないといけない。いろいろな事情を考慮しないとカルテルと判断できない中で、一方で経団連は強烈に明確化せよといっており、公取と経団連の押し引きの中で何か公取が守り続けている、というような構図がおそらくある。ここは政策論として明確化するのがいいのか、もうちょっとケースバイケースで本来考えるべきもの、個別ケースで弁護士の仕事なのかが悩ましいと思っている。

    落合 こういった分野を前向きにやってくれる独禁法に詳しい弁護士はいないのではという声に接することがあり、課題感を感じていたところである。

    小島 ごく一般的にいうと、実質的に競争している企業がマーケットサイズに比べて少ないというのが問題だと思うが、どこまでが考慮すべき特定のマーケットであるかはやってみないと事前的に全て決まっているわけではなく難しいと思う。ただ、経済学的というかデータをきちんと見た手法は難しいとしても、どういうときに判断するかを明確にすることはできる。

    小島 例えば、最近東大で同僚の川合慶さんが、公共調達のオークションにおける談合に関する論文を書いていて、そこでは公共調達において「競争的にやっているならば絶対に出てこないような入札パターンをデータで同定することができ、かなりの確度を持って発見できた」と報告されている。事前が全般的に難しいというのは正しいが、事後的な感じでありながらもある程度談合的なものを同定する技術が若干増えてきている印象はもっている。

    小島 ただ難しいのは、こういう類型だとわかってしまうと、それがわからないように行動されてしまうことだ。いわゆるイタチごっこ的なことが起こるというのは先ほどの研究でもしばしば観察されているところではある。

    落合 そこは確かに難しい。サイバー攻撃と同じかもしれない。「こういうふうに防御する」と言ってしまうと、それを回避して攻撃してくるというのは、ある種の制度に対する攻撃者であると見ると、同じことをやっているのかもしれない。

    國峯 実はいくつかの法律でカルテルの適用除外というのを置いているが、昔はこうした法律がもっとたくさんあった。グリーン関係でも適用除外の議論もありうるのではないか。経団連としてはそういうのをやってほしいと思っているのではないか。

    落合 直近だと、カルテルの情報例を作ったのが銀行とバス。「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」が制定され、そこそこ使われているような気がする。件数は5件ぐらい出ているが、ただそれでも不満はもっているように思われ、自治体からの規制改革提案で、特例法自体の見直しというテーマに接することもある。

    國峯 グリーンで適用除外をやろうとすると、何を適用除外にするのかという制度設計がとても難しいとは感じている。

    >規制改革とファクトベース、リスクベース

    吉井 ファクトベース・リスクベースでの検討部分は、リスクベースというとむしろ、ゼロリスク信仰のようなものを促進してしまうのではという感じもする。事の本質は、現状からのメリットとデメリットの差分を比較するのではなく、現状と規制を変更した後のメリデメの比較をトータルですべきということだと思うので、それをしっかりと書いたほうがよいのではないか。

    吉井 個別の規制改革の事例の中で、単に物事を細分化して規制緩和をするのではなく、シンプルにして緩和するようなやり方があれば、それも一つの供給制約社会における規制改革の視点になるのではと思う。供給制約というとき、労働力、エネルギー、物だけではなく、ブレインパワーも制約を受けるはずなので、シンプルにするということも1つの方向性だと思う。

    落合 シンプルにするパターンというのは、性能規定にするという話かもしれない。結果を指定するということ。コロナのときのデジタル規制改革でも、デジタルの方も何か新しい手法はやはり性能規定しかないよねという話になった。デジタルの視点の方からいっても、供給制約の方からいっても、性能規定化に落ち着くのかもしれない。

    稲谷 リスクベースできちんと費用便益計算に基づいて法制度を設計しようという話については、VSL(Value of Statistical Life)のような方法論に基づいて、法益の定量化をどのように進めるのかという問題や、どのような定量化手法に基づく測定であれば法的に正当化ができるのかという問題について、議論が十分に深められていないという現状がある。今後は、これらの論点について議論を深める必要があるだろう。

    稲谷 また、R&Dを基盤とする産業政策を考えるのであれば、社会科学的なR&Dにも一層投資する必要がある。今の日本は、技術それ自体には結構投資していると思うが、その技術を社会的に実装するために必要になる社会科学的な研究開発には十分な投資がされていないと感じる。アメリカやイギリスでは、関係機関やファンディングエージェンシーが、大学をはじめとする研究機関の社会科学的な研究開発にきっちりと投資しており、技術を社会実装することまで含めて意識が回っている。これと比較した場合、日本は技術の社会実装技術まで意識が回っておらず、結果的に競争劣位となっているのではないか。

    稲谷 公取の介入基準や介入手法については、実証的な経済分析に基づいて、社会的厚生の最大化という観点からなされる必要がある。経済法や競争法は、法と経済学の本拠地とでもいうべき領域であり、数理モデルやデータに基づいた実証的な法政策が欠かせない。アメリカでは、司法省の検察官にもそのような認識が浸透しているのに対して、日本では、まだまだその段階には至っていないようにも思われる。しかし、この基本的な枠組みこそが、改めてしっかりと徹底されなければ、デジタル化による規制環境の変動に対して到底適切に対応できないのではないか。

    稲谷 社会科学による研究開発という観点から見た場合、現状のアカデミックポストの仕組みでは、優秀な人材が大学には集まってこないという問題もある。学際的で先進的な研究開発が必要な分野はたくさんあるので、そこにお金をつけてポストを用意しなければ、優秀な人材をリクルートすることは非常に難しい。アメリカでは科学技術開発へのファンディングに対して、ELSI研究に一定割合のお金を割り当てることを義務付けており、それが学際的で先進的な研究分野を成立させる基礎になっているように思う。例えば、法政策の設計について、定量的なデータ分析に基づいた提案ができる人材を育てるためには、そのような人材が安定したアカデミックポストについて研究できるようにエコシステムを構築しなければならない。そのためには、長期的かつ相応の規模を持った研究開発資金の分配が必要不可欠である。

    落合 利益衡量として、エピソードベースではなく、もう少し緻密な議論の積み上げを行って法的正当化の議論ができるようになるためには、アメリカで実践されているようなVSLなどをもう少し整理して議論しておくことが必要ということかもしれない。

    稲谷 全くその通りである。自動運転のSWGにおいては、エピソードベースで法政策のあり方を語る人が入ってしまったために、合理的な制度設計に関する議論の進捗に支障をきたした印象を持っている。法制度をどのように設計するのが社会科学的に正しいのかという問題と、望ましい法制度のあり方を利害関係者にどのように説得するかという問題は本来次元が違うはずであり、両者が混同されたままだと、いつまで経っても合理的な制度設計に繋がらない。この問題を解決する意味でも、リスクの定量化手法としてのVSLや、その運用を法的に正当化するための手続や方法について、より踏み込んだ議論を行う必要がある。

    稲谷 VSLを運用するにあたって、ある規制の費用と便益とを定量的に可視化できるようにすることで、例えば実践的なアプリケーションの例として、過失責任や製造物責任の本来のあり方は議論していくことは重要だと考えている。プロトタイプ政策研究所の今後の議論の仕方としては、学術的にも重要な議論について、その前提となる事情からオープンかつ柔軟にやっていくのが良いのではないかと思っている。学術的に間違いのないものが出来てから政策のあり方を議論するというのも一つの方法ではあると思うが、現在求められている学際的・先進的な問題を考える上では、むしろ、学術論文を書く前提なるアイデア出しを様々な立場の人が行うこと自体に価値があるように感じている。そのオープンかつ柔軟になされる議論をポッドキャストなどで見える化しつつ、その議論を通じてそれぞれが自分のアイデアを練り直していくのも面白いと思う。

    落合 抽象度が高い議論なので、対談として世に出す際は、設例を出しながらのほうが伝わるかもしれない。ただ、自動運転にしてもライドシェアにしても、様々な立場の人で意見の割れやすいトピックでもあるので、その設例として何が相応しいのかは難しいところである。

    稲谷 VSLというテーマ自体が重大なリスクを伴う問題領域に関わるものなので、多くの方からそれぞれの立場で意見が出やすく、大きな議論になることはやむを得ない側面もある。例えば、自動運転の安全性については、自動車にどういった規制をかけるのが社会的に最適なのかを、リスクを定量化した上で計算することになる。自動車の安全性に関する規制の費用便益計算は、アメリカでも論争的なテーマだったわけで、この問題について論争が起きやすいことはやむを得ない。しかし、エピソードベースで適当に実施されていた規制を合理化するためには、やはりこの点についての踏み込んだ議論は避けられないわけであり、むしろオープンな形で、どんどんアイデアを出していくことが重要であるし、その際には具体的なテーマと同時にというのがよいとは思う。

    >規制改革と産業側視点、執行費用

    小泉 規制改革は、産業側から見ると正しい産業構造のような、つまり事業者が競争する部分と協調する部分があって最終的にサービスとサービスが繋がる、そういったことになるための呼び水のようなものにも見ることができると思った。ただし、規制が複雑だったり、提出先が複数に渡ったり、個別のフォーマットで手間がかかったりなど、産業にとっては非常に重いだけということにもなりうる。

    小泉 よって、規制の運用を効率化するための見直しや緩和も大事だが、一方、規制が効いているか、適正に競争が行われているかのガバナンスを考え、そのガバナンスを運用する方法を見てみてもよいのではないか。それはデジタル基盤のような話になるし、民間のプレイヤーとしてはそういったプラットフォームになりたいと考えたりもする。規制緩和、規制自体のあり方という視点だけではなく、産業の育成、アーキテクチャにも繋がるこういったニュアンスをうまく表現できれば、産業側の人にとっても良いように感じた。

    吉井 規制と言うと、規制の緩和を求める責任もどちらかといえば事業者側にあり、役所は受ける側になる。ただ、役所が緩和されたものを踏まえて新しく産業作りする責任があるのはおかしい一方で、事業者側が新しいサービスのあり方を作るという意味で責任が全て事業者側に寄ってしまうのも違う気がする。規制の目的が、最終的には産業の健全な発展によりニーズがあるサービスが届くことにあるのだとしたら、その責任を共有する場、対話の場があってもよく、その出口として性能規定による規制は位置づけられるかもしれない。

    小泉 ビジネスにおいて、とりあえず先行投資すれば事業が伸びるのが確実に見えるような人口増加状態や需要過多な社会構造ではないとき、事業者はシビアな判断を求められることが多くなる。そのような中では、規制を簡便にしたり、規制のモニタリングの運用の仕方を変えたりするのも一つかと思う。さらには、新しい規制が新しい産業の呼び水になることがある。例えば、厳密には行政の規制ではないが、カーボンニュートラルを進める上でのTCFDの提言に基づいて各企業に情報開示が求められている。これによって、各事業者が各数値を可視化するためにデジタル実装をし、各事業部の状況をリアルタイムでモニタリングするためにデジタルインフラ実装の話が出てきた。このような場面でも、事業者はできるだけ簡便なやり方を考えるのでここに新たな産業が生まれるかもしれない。

    落合 全体の運用コストをもう少し意識してもいいのではという話もある。

    吉井 産業の視点から性能規定を踏まえて議論できると、「規制を変えたのに事業者が気づいていなくて、本来できるはずのことができていない」という状態や、役所側の「情報発信しているからあとは知らない」という状態をなくせるかもしれない。産業のモニタリングの一環で規制をモニタリングするという枠組みでもいいと感じた。

    宮田 供給制約の管理というとき、まず行政側が執行などをモニタリングする仕組みができなければ意味がない。例えば、民泊の分野だと、違法民泊の取締りは自治体が業者に委託している。これは、行政の観点では行政内のリソースが減っている中でいい一方で、社会全体の観点では本来別の産業に振り向けられたリソースが行政の執行の手足になっただけともいえる。さらに言うと、執行やモニタリングは、産業規模として大きくなりにくい。少なくとも、役人のやっていた仕事を単に代行させるだけであれば、役人の給料を払っていた分ぐらいの規模の話にしかならず、リソースの奪い合いをした結果産業も縮小するという結果を生んでしまうという懸念がある。

    落合 細かい話で言うと、民間側に委ねるとき、執行を全部任せると「公権力の行使は公務員しかできない」という原則に反することになる。このため現実に委ねるとすると、またそこに何かつまらないプロセスビルトインされて生産性が下がることにもなる。もっとも、権限の行使ではなく、データを通報するだけのような形であれば公務員でなくとも可能かもしれない。

    宮田 そういう意味では、レギュテックがキーになってくると思う。ただ、金融など明らか数字で監視できる分野はイメージが湧くのに対し、それ以外ではあまりイメージがもてない。個人情報保護法違反をどうレギュテックで防ぐのかと尋ねられればよくわからない。個人情報だとまだ個人情報、データでやり取りする以上、ある程度わかるかもしれないが。

    落合 例えば、漏洩通知のようなものを自動化するという方法はありうる。全部を完全にオートメーションでやろうとすると、それに合わせて法律を変えておく必要があるかもしれないが、部分のアウトソーシングだとできそうだと感じた。

    稲谷 執行費用をどう下げるかという話をするときには、企業が自身で実施する法執行に対する信頼性がなぜ低いのかについての議論もセットで行う必要があるだろう。デジタル臨調作業部会の際にも、自動運転SWGの際にも、いわゆるDPAのような形で民間側が自主的に法執行をすることについて、官庁側が信頼していないことを感じる場面があった。

    稲谷 ニワトリとタマゴの関係にもなるのかもしれないが、これは現状の企業制裁の仕組みだと、チートが容易に可能になっていることと深く関係しているように理解している。そうすると、民間側がデジタル技術を活用して規制を自動化しようという取り組みをする際にも、そのような取り組みにおいてチートがなされないようにするインセンティブをどのように設計するのか、企業制裁・執行の仕組みをどのように整えるのか、という問題を解かない限り、中々規制の自動化が民間主導では進んでいかないということになる。逆にここさえうまく行けば、元々民間側にはコンプライアンスコストを下げたいというインセンティブがある以上、機械による自動化も非常に綺麗に進んでいくと考えられる。

    落合 規制のDX、規制のトピックスという話と、供給制約があるときにどういう形の規制のメカニズムがいいのかという話は結局、いずれの観点からも「性能規制という方向に進んだほうがよいのではないか」というところに落ち着くと思っている。先ほどの統治機構の話も、その不全が供給制約の原因でもあるので、どの議論もどこかではリンクしている。


    ●NTT法の提言

    落合 提言の概要説明(省略)

    ●電気×通信×インフラの検討状況

    落合 電気×通信×インフラの検討状況の説明(省略)

    ●個人情報、データの検討状況

    落合 個人情報、データの検討状況の説明(省略)

    データ法制に関する提言

    落合 瀧構成員提出資料の説明(省略)

    ●クロサカ先生事前検討メモ

    落合 クロサカ先生事前検討メモの説明(省略)

    ●人材政策に関する話題共有

    小泉 デジタル人材、GX関係に取り組んでいる。その理由としては、GXを進めていく上で、企業が変革を推進していくときボトルネックになるのが人材でそれに取り組むのが社会実装にとって重要、というのが一つ。もう一つが、公正な移行(ジャストトランジション)の問題。GXの文脈では、公正な移行(ジャストトランジション)というキーワードが出てくるが、ここでは各国労働移動の話と絡めている。

    小泉 例えば、イギリスは国を挙げて、石炭系石油系の産業に関わっている人(ブルーカラー層だけでなく、ホワイトカラー層も含めて)を洋上風力などの産業にどう包摂できるか、スキルを横展開させながら新たなスキルを身につけさせて移行できるかに取り組んでいる。イギリスではこれを「エネルギースキルズパスポート」という名前のコンセプトにして、あるエネルギー業界から別のエネルギー業界に移行するには「あなたの場合このスキルをプラスで身につけよ」ということが明確になるようにしている。

    小泉 新しい産業を作って新たな雇用を生み出し、今ある産業の中で新しいサービスやスタートアップを生み出すのも一つのやり方だが、それ以外にも、今後必要となっていく産業に労働力をどう移行させられるかは考えなければならない。供給制約型社会の前提にある人口減少のもとでは、何もしないで労働力が移行していくことはないので、うまく設計してやる必要がある。これは2025年頃から動いてくると予想している。この観点はGX以外、例えば地域の問題、すなわち「人・街・仕事」の仕事がない地域に人が住み続けてどうやって所得を得るのかという問題でも当てはまり、コンパクトシティの話題にも繋がる大きな政策パッケージだと思う。

    小泉 従前の日本社会では、「これから必要に身につけていくべきスキル」は企業の研修を通じて身に着けていたところがある。メンバーシップ型雇用の時代はこういった形で人に対して投資をしていた。しかし、今や企業もそのような余裕はなく、自分の報酬が上がるように、個人個人が自分に投資するしかなくなっている。日本ではここ数年、個人のスキルアップのサポートの充実に取り組んでいるが、お金の話にとどまっていて、個人にスキルアップの動機を持たせることはできていない。結局、そのスキルを身につけるとどのように給与が上がるか、その相関性をできる限り明らかにしていくしかないのではないか。

    落合 今制度作りとして動いているのは人材の流動性をある程度増すための方法の一部でしかなくて、もう少し積極的に、実業的にどういったスキルをアップデートできるかは手つかずだと思う。


    ●災害に関する議論

    前田 特定の社会問題の解決についてスマートシティというアプローチから何かできないか、特に官民連携の協力の形でポリシー、政策提言ができないかに関心がある。特に日本が発信できるのは、自治体には人的にも財的にもリソースに限りがある中で、ビジネスとして魅力のある協力の仕方があるのかを議論している。

    落合 今年は防災関係の議論がいろいろな政策の会議でも、アジェンダに上がりやすい状態になっているという印象がある。能登半島地震の場合でも、報道の中にも所有権の壁を指摘するものも複数あり、既に崩れてしまっているがれきなどが、場合により権利保護されてしまうため、建物を再建するどころか除却すらできずそのまま見ているだけになっているのもあるなど、できないことも多くあった。今の体制で防災、復興について立ち向かっていくことにも限界を感じておられる部分もあったのかもしれない。

    前田 日本は災害が多いので、対応や課題についてグローバルで発信できると思う。気候変動に対応するための対策も議論されているが、変わってしまった気候に起因する自然災害に対応する方法としてどうするのかという防災の観点での議論もされているところもあって、そこで日本がうまくグローバルで発信していくことができればと思っている。

    落合 日本は、対外的な情報発信が不十分な場合が多いので、外から見ると何をしているのかよくわからない状況にとかくなりがちなところがある。

    前田 「税金だけに頼らず、民間からの協力も入って防災の対応ができる」、そういった官民連携の仕組みについて、日本から発信できるようになればよい。

    落合 建物、その中の動産の所有権の問題でがれきの撤去がうまく進まない問題があるが、これはVSLの議論でまとめることはできるのか。

    稲谷 VSLの測り方の問題でもあるかもしれないが、どちらかといえば「社会の効率性を念頭に置いた場合に財産権をどう設計し直すか」という議論にも近いかもしれない。権利の設計の仕方、それが社会全体としてどのように影響するかという研究は、ラディカルマーケットの著者も含めて議論が深まりつつある領域なので、このあたりとも接続できると面白い。

    落合 測り方という意味では、防災の観点だと率直な議論がしやすい。

    稲谷 防災の観点で測りにくいものを測るという観点では、災害現場で建機が遺体を損壊してしまうリスクがどの程度であれば建機を入れることができるのか、という問題もあると聞いている。



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