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2022年8月1日
電気通信事業法の事故調査・情報共有に関する提言
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
プロトタイプ政策研究所
提言No.0001
情報通信
電気通信事業法の事故調査・情報共有に関する提言
提言の骨子
今般のKDDIの大規模通信障害を受けて、原因究明の取組が進み始めている。このような直近の事案に関わらず通信サービスが社会インフラとなった今日において、電気通信事業者の責任追及だけを目指すのではなく、電気通信事故検証会議の課題も踏まえ、通信障害の課題の特定と解決に向けた知見の共有を目的とした調査・情報共有の仕組みを一層整備することが、公益に資すると考えらえる。プロトタイプ政策研究所は、電気通信事業者の通信障害が通信サービスに留まらない社会全般に関することを踏まえ、総務省はもちろん、電気通信事業者や通信機器ベンダ、クラウド事業者も含めた国内外の関係事業者を含むマルチステークホルダーの協力を得て事故調査を行い、原因究明と教訓・ノウハウの共有を重要インフラの運営に不可欠な一種の「公共財」たる情報と位置づけて、マルチステークホルダーないしは社会全体への事故調査・検証結果の共有の取組みが一層進められることに強く期待する。
提言
2022年7月2日(土)未明、KDDI株式会社及び沖縄セルラー株式会社が有する通信設備が大規模に故障し、両社の契約者を中心に長時間にわたって大規模な通信障害が生じた。今回の事故では、通信サービスの契約者に直接影響が及んだだけでなく、両社の顧客となる法人事業者のサービス等も介して、銀行取引から駐車場利用のような場面まで社会の様々な領域におけるサービス利用者も対象となった。本稿ではこのような通信障害事案を契機に、今後の電気通信事業法における事故調査・検証のあり方について検討する。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、通信インフラへの要求水準は高まり続けている(*1)。一方、デジタル技術が日常生活に浸透するにつれ、システムは大規模化・複雑化しており、また複雑なシステムはその内部構造の理解・把握が困難なブラックボックスになりやすい。
そのため、電気通信事業者や通信機器ベンダに専門的な知識やノウハウが従来以上に求められるが、現実は個別の取組には限界がある。また、総務省は電気通信事故検証会議を2015年度から開催しているが、事故調査を通じたリスクアセスメントの結果が機密情報を除いて公表される等の情報開示はなされていない。また、「故障の原因等の詳細について、事故の当事者である通信事業者に対して、当該設備の調達先である関係者からの十分な説明や情報提供が得られない場合があること」(*2)も報告されている。近似の背景を有するインシデントは近年も電気通信事業者で生じていた可能性はあるが、それらから十分な教訓を得られる状況になかった。このような状況を打破するため、課題の特定や解決に向けた取組を共有するための仕組みの、一層の整備が必要と考えられる。
こうした取組の共有を進めるには、事故当事者である電気通信事業者及び電気通信事業の関係者への情報の開示を求める手続の整備と、その手続を実効的に実施するための情報開示に関するインセンティブ設計が欠かせない(*3)。そのためには、電気通信事業法で定められた行政処分に係る対処とは別に、事業者への制裁や加罰を一義的な目的とせず、むしろ情報提供による免責の可能性をも含めた制度設計の検討を行う必要がある。また、航空・鉄道事故分野を取り扱う運輸安全委員会は、長年の事故調査のノウハウと事故調査の調査・分析・統計のための人員体制が確立されているが、総務省総合通信基盤局においては、電気通信事故の分析担当はわずか数名となっており、情報開示に関するインセンティブ設計とその運用のためには行政機関における体制整備も欠かせない。一方で、このようなインセンティブ付与だけでなく、実効性確保のためのディスインセンティブの検討も重要である。情報開示に関して容易に開示拒否ができない開示制度を整備しつつも、積極的な協力がなければ適切な情報収集には困難が生じうるので、開示拒否の場合の制裁の可能性等も検討のオプションに含めることも考えられる。
電気通信事業法については、5G普及、基地局シェアリング、ネットワークのクラウド上での実装(いわゆるクラウドネイティブ)、民生品利用を含めた基盤技術の多様化など、情報通信システムは従来以上の複雑化が進んでいる。通信インフラでさえもパブリッククラウドへの移行が世界的に進む時代においては、電気通信事業者だけでなく、国内外の機器ベンダやクラウドベンダや、場合によっては通信サービスを利用して他のサービスを提供する事業者等も対象としうるマルチステークホルダーからの情報開示、分析結果の公表が不可欠である。
電気通信事業法は、通信設備を用いて通信サービスを提供する者である電気通信事業者に対して設備の適切な維持を求めており、インシデント発生を受けて当該電気通信事業者が一定の責を負うのは義務である。しかし電気通信事業が単なる通信サービスではなく、その他の領域のサービスの基盤ともなりB to B to Xの形で直接の通信サービスの顧客以外にも重要な影響が及ぶことを踏まえ、前述のようにインシデントとの対峙を電気通信事業者のみに委ねずマルチステークホルダーの協力を求める一方で、関係するマルチステークホルダーに対して、検討結果は重大な機密情報を除いて共有されることが公益に資する。
電気通信事業法を所管する総務省も、2021年9月に公表された「情報通信審議会 情報通信技術分科会 IPネットワーク設備委員会第五次報告」において、重大なリスクに関するOODAループ機能やリスクアセスメント機能の強化のため、報告制度を量的・質的に見直すことや、第三者検証やそれを担う機関の在り方、また事故調査・リスクアセスメントの結果公表やリスクコミュニケーション等により、マルチステークホルダーの取組の促進について、提言をまとめている(*4)。
一般に社会インフラは特定設備の不特定多数による共用で成立している。そのため、無尽蔵にコストを費やしたゼロリスク(無謬性)の追求ではなく、むしろ事故そのものは不可避であるという前提で、可及的速やかに復旧を目指すことが合理的である。その際、システムが複雑化しやすいデジタル技術では、原因究明とその共有こそが、ステークホルダによるリスクアセスメントの向上や被害低減の要諦であり、インフラとしての強靱さ・粘り強さにつながる。電気通信事業者の通信サービスは、その他の社会インフラやサービスの基盤ともなることから、電気通信事業法に関する議論とはいえ、社会全般の基盤整備に関する事柄であることを意識して議論が進められることが重要である。
これまでの検討やこうした認識を踏まえ、総務省においては今回の事故を契機に、原因究明と教訓・ノウハウの共有を一種の「公共財」と位置づけ、電気通信事業者に留まらない関係者や外部有識者とも連携しつつ、事故情報収集、原因分析、再発防止策といった直接的対応はもちろん、マルチステークホルダーから収集した知見を社会全体の資産とし、さらに海外の制度・事例の探究や国内外の幅広い事業者からの協力を得ることを通じ、社会インフラとなった通信基盤の現実的な強靱化に資するような取組を期待したい。
(1)2022年の通常国会で可決され、6月17日に公布された電気通信事業法では、改正法の概要資料で「ブロードバンドサービスについては、契約数が年々伸び、 「整備」に加え、「維持」の重要性も高まっている」として、一定のブロードバンドサービスを基礎的電気通信役務(ユニバーサルサービス)に位置付けたと説明されている(改正電気通信事業法第7条第2号)。
(2)「情報通信審議会 情報通信技術分科会IPネットワーク設備委員会第五次報告」(2021年9月URL:https://www.soumu.go.jp/main_content/000770320.pdf) 57から59頁の電気通信事故検証会議の現状・課題に関する記述を参照。
(3)国内においては、国土交通省の運輸安全委員会のような第三者機関を整備する例もあり、消費者安全調査委員会、経産省電力安全小委員会等、他の重要インフラに関する規制との関係では国内でも様々な制度整備の例がある。
(4)事故調査制度に関する議論については、特に前掲注2・56から65頁を参照。
お問い合わせ先
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渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 プロトタイプ政策研究所
Email: public-inst.contact@aplaw.jp
(2022年8月1日)
主な執筆者・意見提出者
研究会メンバー及び研究員
※順不同
執筆者
クロサカ タツヤ
株式会社 企 代表取締役
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授
プロフィール
落合 孝文
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
シニアパートナー 弁護士/第二東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特別招聘教授
プロフィール
瀧 俊雄
株式会社マネーフォワード 執行役員 グループCoPA
サステナビリティ担当/ マネーフォワード総合研究所長
プロフィール
小泉 誠
デジタルリテラシー協議会 事務局/福岡地域戦略推進協議会(FDC)フェロー/一般社団法人Q-STAR 量子スキル標準策定委員 主査/慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所 研究員
プロフィール
宮田 洋輔
株式会社ポリフレクト代表取締役社長
プロフィール
稲谷 龍彦
京都大学大学院法学研究科
教授
プロフィール
松尾 剛行
桃尾・松尾・難波法律事務所
パートナー弁護士
プロフィール
羽深 宏樹
京都大学大学院法学研究科 特任教授/東京大学大学院法学政治学研究科 客員教授/弁護士(日本・NY州)/スマートガバナンス株式会社代表取締役CEO
プロフィール
谷崎 研一
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
弁護士/パートナー
プロフィール
本提言の執筆にあたっては、上記執筆者・意見提出者のほか官民の有識者等にヒアリングを踏まえて作成したが、特に以上のメンバーが寄与した。