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2026/4/22

デジタル時代の法と社会を再設計するー2025年11月29日開催「学生向けデジタル法政策ワークショップ」レポート

    2025年11月29日(土)、京都大学大学院法学研究科附属法政策共同研究センターと当研究所(渥美坂井法律事務所プロトタイプ政策研究所)の共催(後援:東京大学大学院法学政治学研究科附属法・政治デザインセンター)により、「学生向けデジタル法政策ワークショップ」が京都大学法経本館にて開催されました。

    本ワークショップは、デジタル技術の進展がもたらす新たな法的・社会的問題について、学生が主体的に考え議論を深めることを目的としたものです。当日は、稲谷龍彦氏(京都大学)、落合孝文(当研究所所長)、小泉美果氏(フリー株式会社)が登壇し、それぞれの専門分野から講義を行ったほか、学生を交えたグループディスカッションが実施され、デジタル技術が法制度や社会ガバナンスに与える影響を多角的に検討しました。

    講義:「リーガル・エンジニアリング」とAI時代の法機能

    稲谷 龍彦 氏(京都大学大学院法学研究科 教授)

    最初のセッションでは、稲谷氏より「リーガル・エンジニアリング」をテーマに、人間とAIが協調する時代における法の役割について講義が行われました。

    稲谷氏は、法を「他者の行動予期に関するモデルを集合的に共有するための認知的装置」であると定義し、人間が「能動的推論」を通じて内的モデルと外的環境を一致させようとするプロセスを利用して、法が社会的な協調行動を生み出していると解説しました。

    しかし、生成AIやAIエージェントの普及により、AIが人間の推論プロセスに関与し始めると、個人の好む情報のみが強化され(エコーチェンバー)、内的モデルが固着化することで社会的分断や民主主義的な対話の困難化を招くリスクがあると指摘しました。その解決策として、AIとの対話に適度な「摩擦(フリクション)」を設計し、ユーザーの内的モデルを揺さぶることで内省を促す重要性を提言しました。稲谷氏は、人間とAIが一体化して意思決定を行う未来を見据え、法システムそのものを技術によって再設計していく視点が必要であると語りました。

    ▼稲谷氏の講義は以下の動画からもご確認いただけます

    https://youtu.be/2y1IgffLMQs

    講義:「アジャイル・ガバナンス」による規制改革の最前線

    落合 孝文(プロトタイプ政策研究所 所長 / 渥美坂井法律事務所 シニアパートナー弁護士)

    続いて、当研究所所長の落合より、技術革新のスピードに対応するための社会統治モデル「アジャイル・ガバナンス」について解説しました。

    落合は、技術の変化が加速する現代において、政府単独ですべてのルールを策定・運用することには限界があり、企業や個人、技術標準など多様なステークホルダーによる分散的なルール形成が不可欠であると述べました。一度定めたルールを固定化せず、社会の変化に合わせて継続的に検証・アップデートしていく姿勢が重要です。

    具体的な実践例として、デジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)での規制改革を紹介しました。ここでは、「目視」や「対面」を義務付ける従来のアナログ規制を、ドローンやセンサーなどのデジタル技術で代替可能な「性能規定」へと見直す作業が進められています。落合は、AIガバナンスにおいても、法律(ハードロー)だけでなく、ガイドラインや国際標準、民間認証などを組み合わせた柔軟なリスク管理が必要であると強調しました。

    ▼落合の講義は以下の動画からもご確認いただけます

    https://youtu.be/JYnaG94cxK8

    講義:官民連携によるルールメイキングとダイバーシティ

    小泉 美果 氏(フリー株式会社 / 慶應義塾大学SFC 特別招聘講師)

    最後に、行政と民間(フリー株式会社)の両面での経験を持つ小泉氏が、実務的視点から「ルールメイキング」について講演しました。

    小泉氏は、行政におけるデジタル化が、単に既存の「人手と紙」の業務フローを置き換えるだけになりがちであるという課題を指摘し、業務の目的自体を再定義する必要性を訴えました。また、民間企業の立場からは、現場のリアルなデータを基に政策提言を行うことで、実態に即したルール形成が可能になると述べました。

    特に強調されたのは、意思決定プロセスにおける「ダイバーシティ(多様性)」です。複雑化する社会課題を解決するには多様な属性を持つチームが必要であり、特に女性比率が3割(クリティカル・マス)を超えることで組織文化や議論の質が変容すると語りました。また、AI利用におけるジェンダー格差の現状に触れ、ルールが不明確な環境では女性がAI利用をためらう傾向があるという課題や、金融データにおける個人のデータコントロール権(APIエコノミー)の重要性についても提起しました。

    グループディスカッションと総括

    講義後に行われたグループディスカッションでは、宮田洋輔氏(株式会社ポリフレクト代表取締役社長)、小泉誠氏(デジタルリテラシー協議会事務局)もコメンテーターとして参加し、学生たちと活発な意見交換が行われました。

    議論では、AIが個人の嗜好に合わせて情報を最適化しすぎることで生じる「エコーチェンバー現象」への懸念や、それを打破するための「AIによる適度な違和感(内的モデルを揺さぶるための閾値)の設定」といった高度なテーマが掘り下げられました。また、「AIによるナッジ(行動変容)が個人の自由意志をどこまで侵害するか」という倫理的課題についても議論が及びました。参加した学生からは、AIが普及する社会において、人間同士の直接的な触れ合いや身体性が持つ意味を再考する必要があるといった意見が出されました。

    最後に講師陣から、既存の専門領域や組織の枠(コンフォートゾーン)を越え、多様な人々と連携しながら新しい社会のルールを作っていく「媒介者」としての役割を担ってほしいと学生へのメッセージが送られ、盛況のうちに閉会しました。


    開催概要

    日時

    2025年11月29日(土)15:00~17:00

    場所

    京都大学 法経本館 第10教室

    主催

    京都大学大学院法学研究科附属法政策共同研究センター、渥美坂井法律事務所プロトタイプ政策研究所

    後援

    東京大学大学院法学政治学研究科附属法・政治デザインセンター

    講師(講義実施順)

    稲谷 龍彦(京都大学大学院法学研究科 教授)・落合 孝文(プロトタイプ政策研究所 所長)・小泉 美果(フリー株式会社 プロダクトマネージャー)

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