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2025/1/14

社会のフレームをより良くする橋渡しを【プロトタイプ政策研究所所長落合孝文インタビュー】

    「弁護士として日々の業務に真剣に取り組み、目の前の事案の解決で社会に貢献するのはやりがいがあります。ただ、個別の事案ごとではどうしようもなく、社会のフレームが悪かったら抗うことは難しい場合もあると思っています。」と話すのはプロトタイプ政策研究所所長の落合孝文です。様々な分野の専門家たちが集まって社会課題を議論し政策提言を行う団体であるプロトタイプ政策研究所の立ち上げの理由や、運営する上での信念や思い、世の中に提供したい価値を語りました。

    ▼本記事の内容は、動画でもご覧いただけます。

    【プロト研メンバーズファイルVol.1】プロトタイプ政策研究所所長・落合孝文

    【落合孝文 プロフィール】

    プロトタイプ政策研究所 所長/渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 シニアパートナー 弁護士/第二東京弁護士会所属

    慶應義塾大学理工学部数理科学科卒業。同大学院理工学研究科在学中に旧司法試験合格。森・濱田松本法律事務所で約9年東京、北京オフィスで勤務し、国際紛争・倒産、知的財産、海外投資等を扱った。現事務所に参画後は、金融、医療、不動産、MaaS、通信・放送ITなどの業界におけるビジネスへのアドバイス、新たな制度構築などについて活動を行っており、政府、民間団体の様々な理事、委員などを多く務めている。

    プロトタイプ政策研究所の立ち上げ秘話―産官学の垣根を超え、長期的に議論できる場を

    ―まずは、プロトタイプ政策研究所を立ち上げるまでのきっかけ、背景についてお伺いできますか?

    まず私がデジタル分野の仕事に関わるようになったのは、2015年9月に渥美坂井法律事務所に移ってからです。当時、第4次産業革命という言葉がよく使われていて、ビッグデータやIoT、AIがこれから世の中を大きく変えると言われていました。私は理学部出身と、バックグラウンドがテクノロジー寄りなので、このデジタル化の流れに本気で取り組むべきだと思ったんです。それで、事務所にイノベーションビジネスチームを鈴木由里先生を中心に有志で立ち上げ、10人くらいのメンバーで活動を始めました。

    AIやIoTといった技術は、どの業界でも取り入れられる横断的なものである一方、それがフィンテックやメディカルテック、MaaS(モビリティサービス)といった分野で独自の展開が進んでいました。なので、「業界横断的なデジタル化」と「それぞれの業界に特化したデジタル化」の両方を進める必要があり、立ち上げられたのがイノベーションビジネスチームでした。

    ―事務所を移られてからデジタル分野のお仕事をされたとのことですが、現在代表理事副会長をされているフィンテック協会の活動もこの頃からでしょうか?

    はい、2016年の初めにフィンテック協会の手伝いを始めました。当時のフィンテック協会は飲み会が中心の集まりなんて噂もあり(笑)、フィンテックのサービスに関連している有力ベンチャー企業もあまり注目してくれない存在だったんです。

    しかし、政策提言や分科会を作り、活動が活発になったころから銀行APIの話題も出て、2017年には銀行法の改正(銀行法等の一部を改正する法律) につながっていったんです。プロトタイプ政策研究所にも参画してくれている瀧先生とは、このフィンテック協会の活動に勧誘するタイミングで出会いました。

    ―政府関係のお仕事をされ始めたのは、銀行APIの件がきっかけなのですか?

    いえ、総務省の「AIネットワーク社会推進会議影響評価分科会」に委員として声をかけてもらった2016年の秋が始まりです。その直前にイギリス、ルクセンブルクやドイツの大学・機関でAIに関して議論をしてきて、それをレポートにまとめたことがきっかけだったのではないかと思います。

    そのころから、政府だけではなく、複数の民間団体ともパラレルに関わりながら政策提言に携わるようになりました。その内容も金融だけでなく、医療ベンチャー協会現在のデータ社会推進会議の前身となる団体であるデータ流通推進協議会の立ち上げから関与するようになり、厚生労働省でのオンライン診療指針の策定や、データに関連する政策に関わるなど、幅広く活動が広がっていきました。

    ―今お伺いするだけでも、すでに多くの提言や法改正などに個人として関わられご活躍だったことが伺えますが、そんな中、プロトタイプ政策研究所を立ち上げようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

    2020年のコロナ前後の頃、経産省の商務情報政策局情報経済課の方々と議論することが多かったんです。その時にアジャイル・ガバナンスのコンセプトを作った「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会」や、「デジタル市場による問題解決と次世代取引基盤に関する検討会」などで一緒に議論をした方々が、今のプロトタイプ政策研究所の初期メンバーの半分以上を占めています。

    特に「人口減少社会においてデジタル技術をどう組み合わせていくか」、「産業構造が変わっていく中でどんな社会基盤を作っていくべきか」という「デジタル市場による問題解決と次世代取引基盤に関する検討会」の報告書での議論は非常にいい議論だったと今でも振り返りますね。今でも資料を見返すほどです。

    だからこそ「こういった人たちともっと議論を深めて、踏み込んだ取り組みがしたい」と強く思うようになりました。様々な専門で尖った才能を持っていて面白い方たちとつながって議論を深め、良いと思うことを言えるような場所があれば、それはすごく良い機会になると感じたんです。

    ―それが外部に独立した「研究所」という形で展開する動機になったのでしょうか?

    ええ、役所では単年で予算が決まっているなど、長期的なプロジェクトを維持しにくい構造になっています。だからこそ、役所ではできないこと、続けられなかったことを実現できる場所を作りたいと考えたのです。

    産官学の垣根を越え、自由な議論を行い、世の中をより良く変化させていきたいという思いが、プロトタイプ政策研究所の発足につながりました。

    プロトタイプ政策研究所は様々な専門家が意見を交わし、本気で社会課題を論じ政策を提言できる団体

    ―プロトタイプ政策研究所のこれまでの活動を振り返って、意義があったと感じたことをお聞かせいただけますか?

    個別には知り合いだったとしても、様々な人と議論を戦わせる場って意外と少ないんです。そんな中で、研究所という場ができ、皆が集まって意見を交わし合えるのは非常に意義深いことだと感じています。

    また、渥美坂井法律事務所からは、私だけでなく若手やベテラン問わず多くの先生方にも参加してもらっています。様々な方から、ご自身の経験を踏まえた提案をもらうことで、幅広い視点での議論が進み、内容がより深く、面白くなっています。

    例えばプロトタイプ政策研究所の主任研究員として活躍していた表先生が内閣府の委員に就任されたり、それまで知見の少なかった若手の先生方から「先生方の議論の8割はわかるようになってきました」という言葉をもらったりします。

    そうやって、何かを一緒に作り出す過程には、初めは曖昧な部分が多いものです。それが、議論の積み重ね方が共有され、実践されることで次第に明確になっていく。こういったプロセスが、コミュニティ全体にも渥美坂井法律事務所内にも、意義のあるものだと思っています。

    ―議論の成果が具体的な政策提言などに結びつくケースもあるのでしょうか?

    ええ、実際、提言をまとめて社会に発信する際には、有識者の方々に多大なご協力をいただいています。また、2024年の夏に京都大学で行ったシンポジウムの内容を本にしようという話にもなり、一緒に活動する機会がさらに広がっていると感じます。今後はセミナーなど、研究所からの提言以外のコンテンツ発信も企画していきたいですね。

    ―今後、研究所としてどのような展開をお考えですか?

    研究所として「個人だけでなく団体としてアクションを起こしていきたい」という思いがあります。やはり、単独の専門家だけではなく、幅広い分野の人たちが重なり合うからこそ、根本の部分から議論を積み重ねられ、最終的には政策提言に結実できると思っています。

    「この提言、プロトタイプ政策研究所らしいね」と思ってもらえるような、団体として認識されるようになれればと考えています。

    ―直近で、特に注力されているテーマやプロジェクトはありますか?

    直近ではデータ政策や人口減少社会に対応したルール作りといったテーマで、2024年11月12日の規制改革推進本会議にて「供給制約社会での規制改革メモ」という資料を石破総理に提出しました。元々の発案は、私が座長となっている規制改革推進会議スタートアップDXGXWGの委員から、何が議論の共通目標かわからないという声をいくつか聞いたためではありますが、研究所の有識者メンバーとは2024年の因島合宿の際にも議論をしてブラッシュアップしてきました。個別テーマももちろん重要ですが、研究所全体として一体感を持って進めることが大切だと思っています。

    また、日本におけるデータ政策の関係では、デジタル行財政改革会議に内閣官房「データ利活用制度・システム検討会」が設置される前から準備を行ってきました。研究所の有識者メンバーや、さらに研究所外の方々とも意見交換をしながら、私の発表資料も準備しました。欧州のデータ法やデータスペースの整備など、データを利用できる方向で制度やシステムを整備する動きがある中で、分野共通で議論するべき点と、また分野ごとの課題も提起して2025年6月までにとりまとめるたたき台を作ることを想定したものです。

    様々なバックグラウンドを持つメンバーがそれぞれの経験を活かし、出会いや議論を通じて新たな考えに触れることができる。このように、研究所として活性化しつつ、より分かりやすく発信していけるようなPRの形も模索しているところです。

    プロトタイプ政策研究所は「明日が少しでも面白くなる社会」に向けた活動ができる組織

    ―では、先生が研究所を運営される中で、大切にされている価値観や信念についてお伺いしたいです。

    信念というと、やはり多様な人たちが集まって互いに学び合い、時に融合するような場所をつくり、その成果を形にして社会に届けたいということですね。私も大学進学を機に東京に出てきた頃、地元の東北とは異なる多様な価値観や可能性を感じる場所があるんだなと気づきましたし、また、それを教えてもらえる場や助けてもらえる場があると知ったんです。そういった「場」の存在がとても大事だと思っていますし、その価値観を研究所の運営にも反映させていきたいですね。

    また、今の日本の産業や社会は長年の「疲労」があるように感じています。変化をさせたくても目の前の業務に追われて細かな改善にとどまってしまいがちで、それが30年ほど続いてしまっているのかなと。それを大きく変えていくきっかけの、ほんの一部でも担えたらと考えています。

    弁護士は目前の困っておられる方を助けていく仕事がメインで、それもすごく大切ことだと思います。でも、もう少し広い意味で世の中が良くなるような活動にもつながるのではないかと思って、研究所を運営していますね。

    ―「もう少し広い意味で世の中が良くなる」活動というお話がありましたが、その点を詳しくお伺いしたいです。

    私はずっと「このままでいいのか」という思いを抱えながら社会人人生を歩んできました。私はいわゆる「就職氷河期」世代ですし、世界のなかで日本の存在感が少しずつ薄れていくのも肌で感じてきています。そんな環境でも、「明日が少し面白くなる」という希望を一人ひとりが持てる社会になれば良いなと思っているんです。

    人として、そこで学びが終わりになる、行動しなくて良くなるというステージはなくて、何か行動したり、学び続けていれば良いものにつながっていく。そういう社会が良いだろうなと思っています。

    ―弁護士業務だけではなく、様々なお仕事で大変多忙なスケジュールを送られているのは、今お話いただいたような原体験が理由の一つなのでしょうか?

    そうですね、私はもともと理系の中でも物理や数学のような理論面のバックグラウンドなので、フレームを整えることに面白さを感じる人間ですから、社会全体の「フレーム」を良くするために関わりたいという視点があるように思います。「新しいフレームワークをつくる」と言い換えても良いかもしれません。

    弁護士として目の前のクライアントの課題解決に全力で取り組むのはもちろんです。でもそれ以上に、より広い概念のところを変えられるのなら、その方がもっと様々な人にとって良いこともあるでしょうし、現実のプロセスとの橋渡しになるような存在になれればと考えています。

    あともう一つは、弁護士、つまり個人事業主として仕事をしてきて「どんな仕事をすれば、仕事を頼まれるような人間になれるのか」を意識していたことがあります。新人の時から自分のできることを精一杯やっていくと、それぞれに面白いチャンスがありますが、逆に見ると同じチャンスは、やってこないことがあるという経験をしてきました。また、その面白いチャンスに乗ったからこそ得られるものは必ずあったと今振り返りますね。そうしたことの延長が、現在の「様々な活動を積極的に取り組んでみよう」という考えにつながっています。

    現在は政府などの公的な仕事だけで一定の数があり、当然大変な時もありますが、多くの仕事に関わってきたからこそ理解できる部分もあります。世の中は複雑で、色々なことがありすぎるし、よくわからないことも多いですよね。そしてわかった気になってもまたすぐ変わってしまう。だからこそ、もっとわかりたい、とキャッチアップを続けていて今に至っています。

    ―本日はありがとうございました!最後に、これだけ多忙にされている中で、リフレッシュ方法があればぜひ教えてください。

    最近は水泳をしています。夕方から夜くらいに1000mほど泳いでいるんです。50分くらいで終わるので、その後に打ち合わせがある日でも続けていますよ。泳ぐとスッキリしますし、頭も切り替わる感じがしますね。

    (撮影:降籏捺妃、インタビュー・執筆:渡部梓)

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