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2026/6/5

政策提言だけではない。社会変革に必要な3つのアプローチ【小泉美果/プロトタイプ政策研究所メンバーインタビュー】

    「日本で働くこと、働き続けることに不安に感じている学生が多くいる。誰もが自分らしい人生を歩んでいけると感じられる社会の雰囲気を作っていかなくてはならない」。そうお話いただいたのは、プロトタイプ政策研究所の研究会メンバーであり、フリー株式会社でプロダクトマネージャーなどの職に就きながら慶應義塾大学で特別招聘講師を務める小泉美果さんです。現代日本の閉塞感を打ち破り、社会を変革させるためのアプローチ方法や、そうした活動のきっかけとなる原体験について聞きました。

    ※本記事の内容は個人の見解であり、所属組織・団体の公式見解ではありません。また、インタビューは2025年9月時点の情報を基に構成しています。

    【小泉美果 プロフィール】

    フリー株式会社 スモールビジネス総合研究所所長 / 金融渉外部長 / プロダクトマネージャー、慶應義塾大学SFC 特別招聘講師(ジェンダーと社会経済)、プロトタイプ政策研究所 研究会メンバー

    新卒で総務省に入り、12年間、デジタルガバメントや業務改革を担当。総務省時代にはアメリカの公共政策大学院に2年間留学、留学中にOECD(経済協力開発機構)への出向も経験。2019年フリー株式会社入社。銀行法改正によるオープンAPI対応では、全国の金融機関とのAPI接続のビジネス交渉を担当。銀行明細を活用した新規事業「freee資金調達」(中小企業・個人事業主向けの金融商品比較サービス)の立上げを担当したのち、2021年よりプロダクトマネージャーとして銀行・電子マネー・EC連携などアカウントアグリゲーション基盤を担当。税制改正要望等の政府渉外兼務。2021年から日本金融サービス仲介業協会理事、2023年から電子決済等代行業事業者協会理事を務めている。

    ▼本記事の内容の一部は、動画でもご覧いただけます。

    https://youtu.be/tEPlgmhTpPQ

    「自分のやりたいことをやれる社会」に。マイノリティとしての経験を言語化

    ーー小泉さんは総務省という男性中心のカルチャーの中で女性として結婚・出産を経験されています。ご自身を「マイノリティ」だと感じた経験が、現在の活動にどのような影響を与えていらっしゃいますか。

    おっしゃる通り、影響は非常にあります。私は意図してマイノリティを選んだのではなく、やりたいことを選んでやってきて、気づいたらマイノリティの立場になっていた、というのが正直な感覚です。入省3年目で結婚・出産しましたが、出産して初めて「子育てってこんなに大変だったのか」とびっくりしましたね。知らなかったから飛び込めたというのもあったと思います。

    また、子連れでの留学や、留学中の夏休みを利用して国際機関で働くという経験を通して、霞が関の中で見えていた景色とは異なる、多様な視点やアプローチがあることを学びました。子育てがひと段落してきた今になって、その経験から得たマイノリティの視点や課題を言語化できるようになりましたね。

    ーーご経歴だけ拝見するととても輝かしくて、一般の人間からすると真似できないと感じてしまいますが、「子育てがこんなに大変だとは」と小泉さんも思われていたと思うとほっとします。

    子連れで留学したのも、私にはそれしか選択肢がなかったからで、当時は「いばらの道」を突き進んでいるような感覚でしたね。自分の時間は持てなかったので、保育園に預けて職場に来て、自分のペースでコーヒーを飲める、という些細なことに幸せを感じていました。

    ーーマイノリティとは少し違うかもしれませんが、実は私(インタビュアー)は子供が1歳のころに再就職活動をした際どこも採用してくれない状況に直面し、労働市場からこぼれてしまったような喪失感を味わいました。

    もし私が出産を機に仕事を辞めていたら、同じように喪失感を味わっていたかもしれません。日本社会では、女性が外で働くようになったから少子化が進んだという言説が根強く残っていますが、先進国では、労働市場に戻りやすい環境にない国ほど少子化が進んでいるという国際的な研究があるんです。これは牧野百恵さんの著書「ジェンダー格差-実証経済学は何を語るか 」の第6章で詳しく解説されています。新卒一括採用や終身雇用の環境の中でキャリアに空白期間を置いてしまうと、働くのが難しくなってしまう。この構造は本当にもったいない。

    小泉美果さんの授業で扱っているスライドより、日本の労働環境とキャリアに関するまとめ

    (授業で扱っているスライドより、日本の労働環境とキャリアに関するまとめ 小泉美果さん提供)

    だからこそ、今は慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)で「ジェンダーと社会経済」の授業を受け持っています。なぜこの講義を受講したいのかというアンケートをとって目を通すと「自分が社会に出たときに何が待ち受けてるのか知りたい」と書いてあるんですよね。社会に出ることに不安を感じている人が学生が多いのだと思います。「働いている大人たちを見て、あんな風になりたくないと思われている」のが現状なんです。

    一人の社会人として「このままではいけない、自分のやりたいことをやれるのが社会に出ていくということなんだと思ってもらえるようにしたい」と感じました。学生に「自分の中にバイアスがあること」を自覚してもらい、社会が押し付ける正解に囚われず、自分の選択肢を広げられるような視点を提供したいと教壇に立っています。

    現代日本の閉塞感を打破する三つのアプローチ

    ーーまさにその学生の不安や社会の閉塞感を打ち破るため、日本社会が変わっていく、変革を起こすためには、どうしたらいいのでしょうか。

    三つのアプローチがあると思います。

    一つ目は、「就職の受け皿である企業や、起業が面白くなること」。働きやすさや人事制度を改善し、多様な人材が魅力を感じる企業や、自分らしくサスティナブルに事業を推進できる起業環境が増えれば、学生に希望を与えられます。

    二つ目は、「エンターテインメントが変わること」。例えば、家庭を犠牲にして働きまくる姿や、性別役割分業をはじめとする固定化された家族の形ではなく、多様な家族の形や働き方を描くコンテンツが増えることが重要です。エンタメから刷り込まれる「日本社会で生きていくための正解」という固定観念を壊す必要があります。

    三つ目は、「政策的手段」です。ヨーロッパでは女性管理職の割合を法制化するなど、政策によって強制的に変化を促す手法がありますが、日本社会に受け入れられやすい形で、政策による後押しが必要です。例えば、男性育休の取得推進などがそれにあたります。

    ーーSTEM分野(理系)に女性が少ないという問題についても、「環境」が重要だと聞きますが、どのようにお考えですか。

    はい。無理に数を増やすよりも、理系を選択した女性が居心地の悪さを感じないようにすることが重要です。研究室のポスターが男性向けになっているなど、環境が「ここは自分の場所ではない」と感じさせる原因になっていることがあります。企業や大学が、コミュニティ内で居心地の良い環境を意図的に作ることが不可欠です。

    EBPMとマイノリティの声の拾い方

    ーー社会構造の変革に政策は不可欠な要素ですが、証拠に基づく政策立案(EBPM※)を行う上で、声が届きにくいマイノリティの声を拾うためにはどうすればよいでしょうか。

    EBPMにおいては、調査手法を政策の目的に合わせて大胆に変えることが重要です。

    具体的には、性別の選択肢を「男」「女」だけでなく「どちらでもない」などの多様な選択肢を用意することや、日々忙しくて回答する余裕のない人にリーチするために、紙ではなくデジタルでのアプローチを基本にするなど、対象者に合わせた工夫が必要です。

    また、行政における政策担当者個人の「こういう課題があるのではないか」という仮説を信頼し、それを検証するための個別調査を気軽に実施できるようなカルチャーを組織内に作ることが、EBPMを形骸化させないために不可欠です。

    ※EBPM エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキングの略。証拠に基づく政策立案。

    政策の企画をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることです。

    なお、プロトタイプ政策研究所所長の落合孝文、研究会メンバー瀧俊雄を含む規制改革推進会議委員・専門委員複数名が、「規制改革における EBPM の促進に向けたメモ」を第23回規制改革推進会議本会議(2025年5月28日)に提出し、今後 EBPM 推進の観点での議論にあたり重要と考えられる事項や、規制改革推進会議としての取り組みが期待される事項を示しています。

    ーー「気軽に実施できるカルチャーの醸成」とのお話ですが、そういった文化を政策の場で実現するために必要なことは何でしょうか。

    そうですね……企業でも新しいことを挑戦するにあたっては、失敗することも当然あるので、そうした試行錯誤は政策の場面でもある程度必要だと思っています。試行錯誤を許容しないと、確実にできる安全な施策だけになり、大きな変革は期待できません。そうすると、社会の停滞感が続き、新しい政策は生まれにくくなると考えています。

    freeeでの実践―スモールビジネスの制度的障壁の解消に向けて

    ーー小泉さんは現職で、特にスモールビジネスのために、具体的にどのような活動をされていますか。

    公務員時代は「政府側からデジタル化を推進し、世の中に広く使いやすく届ける」役割でしたが、freeeでは「民間側から、中小零細企業も使いやすいデジタルツールを直接届ける」という役割を担っています。立場は変わっても、行政手続きのデジタル化を含め、社会全体の生産性を向上させるという一貫したライフミッションを継続している感覚で仕事をしています。

    具体的な私の役割は、スモールビジネスが使いやすいツールを作る上で、制度的な障壁があればそれを取り除くことです。例えば、税理士法に「2ヶ所事務所禁止規定」があり、これが税理士のリモートワークを阻害していました。私たちはグレーゾーン解消制度を活用して国税庁に照会し、特定のモデル就業規則に沿った方法であれば、リモートワークも問題ないという公式見解を得ました。また、税制改正要望において、税を起点にスモールビジネスも取り組みやすいデジタル化を推進するよう、現場視点での規制の見直しを提案しています。

    ーー現職でのご活動が、プロトタイプ政策研究所に参画されたきっかけになったのでしょうか。

    はい、freeeの立場で、電子決済等代行事業者協会や日本金融サービス仲介業協会、フィンテック協会といった金融系の事業者団体で、所長の落合先生と一緒に活動してきました。その繋がりでお声がけいただいたんです。

    ーープロトタイプ政策研究所での活動を通じて、印象に残っていることはありますか。

    有識者の先生方が、もちろん専門分野はありつつも、知見や興味関心を広く持っていらっしゃることが印象的です。先日札幌で行われたイベントでは、当初「越境人材」の話から始まった議論が、環境分野、AI、個人情報、ジェンダーなど様々な分野に広がりました。専門性が異なる方々が、分野を越えて「多様性がイノベーションの鍵であること」など、共通の話題について議論できる場であることが、最大の特徴だと感じています。

    自己責任ではなく、社会構造の問題にメスを入れられる社会へ

    ーー今後のプロトタイプ政策研究所の課題や展望について、どのようにお考えですか。

    もっと多様な属性の人、女性だけでなく、様々な分野で極めている人に参加してもらうことで、政策提言がさらに活発化すると思います。私自身は、freeeで培ったビジネスデータを活用したEBPMの推進や、マイノリティの声を拾い上げ仮説検証できる形に貢献していきたいと考えています。

    ーー最後に、今後小泉さんが特に力を入れたいプロジェクトやテーマについてお聞かせください。

    個人的に最も力を入れたいのは、マイノリティの方々、特に女性が「自分が悪いんだ」と自らを責めてしまいがちな状況を変えていくことです。

    ーー自己責任だと感じてしまう、ということですね。私もそう思っていました。

    マイノリティの方が感じている悩みは、個人の選択や能力だけではなく、社会構造にも一因があると考えています。私の役割は、自身の経験や海外の研究事例を、日本社会の文脈に翻訳して伝えることです。

    そうすることで、「あなただけが悪いんじゃない、社会の仕組みにも問題があるんだ」と伝え、個人の問題を社会全体の課題として捉え直す手助けをしたい。誰もが心の余裕を持ち、自分らしい生き方を選択できる具体的な解決策を一緒に見つけられるように、社会の雰囲気そのものを変えていきたいと考えています。

    (インタビュー・編集:渡部梓、撮影:田中美樹)

    ▼本記事の内容の一部は、動画でもご覧いただけます。

    https://youtu.be/tEPlgmhTpPQ

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