プロトタイプ制作研究所ロゴ

News

ニュース

  • ニューズレター

2025/10/31

ジェネリック医薬品供給問題について

    Newsletter 渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 プロトタイプ政策研究所 2025年10月31日

    1.      はじめに

    (1)        ジェネリック医薬品について

     我が国におけるジェネリック医薬品(後発医薬品)の使用割合は、過去15年間で約35%から約80%に拡大しており[1]、今やジェネリック医薬品は、私たちの医療に必要不可欠な存在であるといえます。ジェネリック医薬品は、すでに有効性や安全性について先発医薬品(以下、「先発品」といいます。)で確認されているという性質上、開発期間やコストを大幅に抑えることができ、結果として薬の価格(薬価)が先発品と比べて安価になることが一般的です[2]

    私たちの薬代は、自己負担分を除き、保険料と税金で運営されている公的な医療保険から支払われます。そのため、薬の価格を削減することは、保険料や税金の負担減につながり、健康保険組合の負担や国の財政負担の削減へ貢献することになります。少子高齢化による国民医療費の増大が深刻化している我が国において、保険料や税金の負担減の促進は急務であり、政府としてもジェネリック医薬品の更なる活用及び普及促進のための施策に取り組んでいます[3]

    (2)       ジェネリック医薬品の供給状況

    そのようなジェネリック医薬品ですが、残念ながら、安定供給できていない深刻な状況が生じています。後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会が2024年5月に公表した「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会報告書」(令和6年5月22日)(以下、「産業構造検討会報告書」といいます。)によれば、2024年5月時点で、医薬品全体の23%に当たる3,906品目が出荷停止又は限定出荷[4]となっています。その内訳は、先発品が379品目(約10%)であるのに対し、ジェネリック医薬品は2,589品目(約66%)であり、ジェネリック医薬品を中心として医薬品の供給不安が発生している状況であることがわかります[5]

    産業構造検討会報告書によれば、この問題は、ジェネリック医薬品企業による医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号。以下、「薬機法」といいます。)違反が相次いで発生し、それに伴い、違反企業の製品について出荷停止が行われたことがきっかけとされています。事の発端は、2020年12月、小林化工株式会社が製造販売する抗真菌剤に、睡眠導入剤の成分が混入する事案が発生したことでした。当時の納入医療機関・薬局数は237施設(39都道府県)にわたり、事案確認後、245人から健康被害の報告がされるほどの社会問題となりました[6]。同社に対しては、薬機法違反の疑いで、厚生労働省、福井県、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、「PMDA」といいます。)による立入検査が実施され、福井県から業務停止処分(116日)及び業務改善命令が、厚生労働省から承認取消処分及び業務改善命令が行われました[7]。これを皮切りに、2024年4月までに21の企業に対して、薬機法違反による業務停止処分、業務改善命令等の行政処分が行われており、各企業における不十分なガバナンスや教育、過度な出荷優先の姿勢、バランスを欠いた人員配置などが、製造管理及び品質管理上の管理不備やコンプライアンス違反につながったと指摘されています[8]

    このような違反企業の製品が出荷停止となると、当該製品と同一成分規格にある他社製品への発注が増加します。一気に多くの発注を受けた当該他社は、在庫の消尽を防止するため限定的な出荷をするようになり、結果的に、出荷停止が行われている品目の数倍もの品目について限定出荷が行われることになってしまいます[9]

     2.     問題の所在

    このように、現在のジェネリック医薬品供給問題は、違反企業の製品の出荷停止が直接的な原因となっていますが、2023年6月に医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会が公表した「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会報告書」(2023年6月6日)(以下、「医薬品迅速・安定供給検討会報告書」といいます。)では、違反が起こる背景として、以下のようなジェネリック医薬品企業・産業・市場の構造的課題が存在していると指摘されています[10]

    (1)        産業構造上の問題

    一般的にジェネリック医薬品企業は、先発医薬品企業に比べて売上げ規模が小さい傾向にあります。約190社のうち、数量シェアについては上位8社が後発品市場の50%を占め、残りの50%を185社で分け合っているのが現状であり、品目数や供給数量が少ない企業が多いのが特徴です[11]。同成分同規格の製品が多数の企業から製造販売されますが、ジェネリック医薬品企業には、薬価収載後少なくとも5年間の安定供給が義務づけられており、少量であっても、医療上の必要性がある限り供給継続が求められます[12]。そのため、製造販売している品目について撤退することは、容易ではありません。

    また、シェア獲得のため値引きして販売する流通慣行や、価格以外で差別化しにくい事情に起因する熾烈な価格競争が繰り返される製品特性から、ジェネリック医薬品の価格(納入価)は早期に下落する傾向にあります。企業は、価格の下落等に由来する低収益を補うため、先発品の特許切れがあれば新規収載品を上市することになり、その結果、少量多品目生産という非効率な生産構造が発生します[13]

    (2)       薬価基準制度上の問題

    患者に提供される薬の価格である薬価は、原則として市場実勢価格に合わせて改定が行われます。前述のような流通慣行や製品特性等による納入価の下落に伴い、ジェネリック医薬品の薬価は早期に下落する傾向にあります。この薬価の下落が、ジェネリック医薬品企業の経営を圧迫し、新規収載品の上市による更なる少量多品目生産や、安定供給に資する生産設備等への投資を躊躇させる要因となっていると指摘されています[14]

    また、薬価を下支えするため、最低薬価、不採算品再算定及び基礎的医薬品といった制度が導入されていますが、適用要件のハードルが高いといった事情から、それらの対象となるジェネリック医薬品は限定的である実態があるとされています[15]

    (3)       サプライチェーン上の問題

    我が国においては、収益確保のため、ジェネリック医薬品の原薬や原材料の多くを、より安価に提供できる中国やインド、韓国といった国々に依存しており、ジェネリック医薬品の約半数は輸入した原薬を用いています[16]。このことは、これらの国々の事情による供給停止のリスクに加え、昨今の為替変動や物価高騰等に伴うリスクを高めることにつながっています[17]

    サプライチェーンが断絶することにより供給不安につながるリスクについては、一義的には医薬品を供給する製薬企業において事業継続計画(BCP)という形で対策が求められます。もっとも、当該リスクの背景は様々ですが、公定価格により価格転嫁が困難である等の制度的又は構造的な要因があり、一企業だけではリスクへの十分な対処が困難な場合があると考えられるため、いわば医療の安全保障という観点から公的関与が求められているといえます[18]

     

    3.      政府の対策の経緯

    ジェネリック医薬品が抱える品質や安定供給の観点での脆弱性を踏まえ、政府も対策を検討してきました。

    医薬品の供給不安に係る課題への対応を基本としつつ、ジェネリック医薬品を適切に使用していくための取組を整理するため、2024年9月には厚生労働省が「安定供給の確保を基本として、後発医薬品を適切に使用していくためのロードマップ[19]」を策定しています。ここでは、ジェネリック医薬品の数量シェアを2029年度末までに全ての都道府県で80%以上にするといった数値目標が掲げられ、目標を達成するため、「安定供給・国民の信頼確保に向けた取組」及び「新目標の達成に向けた取組」の2つの項目に分け、具体的な取組施策が設定されました。ジェネリック医薬品の活用及び普及をより一層促進するため、数値目標を掲げてそれの達成に向けた取組を行うだけでなく、品質確保に係る取組や、安定供給に係る取組を行うことで、ジェネリック医薬品供給問題の構造的課題にアプローチしていく方向性が打ち出されました[20]

    政府による対策の方向性は、産業構造検討会報告書に記載された①製造管理・品質管理体制の確保、②安定供給能力の確保、③持続可能な産業構造、及び④企業間の連携・協力の推進の4つの項目を通じて具体化されています。以下では、これらの項目をそれぞれ見ていきます。

    (1)        製造管理・品質管理体制の確保(①)

    「製造管理・品質管理体制の確保」は、品質が確保されたジェネリック医薬品を安定的に供給し続けるに当たり、製造管理及び品質管理の徹底が当然の前提となるところ、前述のような品質管理に関する薬機法違反事案が現下の供給不安のきっかけとなっている現状を踏まえ、ジェネリック医薬品への信頼回復と供給不安の再発防止を目的とするものです。

    具体的には、ア)徹底した自主点検の実施、イ)ガバナンスの強化、及びウ)薬事監視の強化・向上の必要性が指摘されています。例えば、ウ)薬事監視の強化・向上については、2023年度からは、都道府県及び厚生労働省が連携の上、相対的に抽出された高リスク製造所に対し、PMDAと都道府県が合同で無通告立入検査を行う取組が行われています[21]

    2025年5月に成立した後述の改正薬機法では、このような薬事監視の強化・向上の流れを踏まえ、GMP(Good Manufacturing Practice)適合性調査の合理化と監督強化の措置が盛り込まれました。具体的には、改正前は5年に1度の実施とされていた定期のGMP適合性調査について、製造所の不適合リスクの評価に基づき、3年の期間内でリスクの度合いに応じた頻度とすることが可能となり、また、製造工程区分ごとの適合性調査については、都道府県が調査権を持つ製造所でも、必要に応じて国(PMDA)も都道府県と協力して調査を行うことができるようになりました[22]

    (2)       安定供給能力の確保(②)

    「安定供給能力の確保」は、品質が確保された医薬品を安定的に供給するために、以下の体制を整備することを目的としています。

    ア)各企業において医薬品を安定的に供給できる体制

    イ)産業全体として必要に応じて増産する余力のある体制

    産業構造検討会報告書では、ア)について、安定供給責任者の設置・組織体制の整備等を含め、安定供給確保のために企業に求める事項・措置を整理しこれを遵守させるための枠組みを整備すること、イ)について、平時から需給状況のモニタリングを行い、需給の変動への対応措置を講じることを可能とする医薬品等の安定供給を確保するマネジメントシステムの制度的枠組みを検討すること等が、それぞれ提言されています[23]

    2025年5月に成立した改正薬機法及び改正医療法では、ア)について、医療用医薬品の「供給体制管理責任者」の設置義務が法定化され、イ)について、限定出荷・供給停止時の届出義務、供給不安時の報告徴収や増産等の必要な協力の要請等が法定化されました。さらに、イ)については、電子処方箋管理サービスの調剤データ等を活用し、需給状況のモニタリングを行うものとされた点も特徴的です[24]

    これらの法改正によって、産業構造検討会報告書でも指摘されていた課題である、これまで企業の安定供給体制の確保の仕組みが法令等で担保されていなかったことや、平時から医薬品等の需給の変動への対応措置を講じるための制度的枠組みが構築されていなかったこと等について、一定の対策が講じられたものといえます。

    (3)  持続可能な産業構造(③)

    「持続可能な産業構造」は、産業全体の構造的問題を解決することを目指すものです。これについては大きく、ア)「少量多品目生産の適正化等生産効率の向上」、イ)「安定的な収益と投資の好循環を生み出すための価格や流通のあり方」の2つの観点から具体策が検討されています。

    ア)少量多品目生産の適正化等生産効率の向上のための方策

    産業構造検討会報告書では、製造方法変更等を行う場合における薬事手続の簡素化や、既収載品目を統合して一方の品目が市場から撤退する際の供給停止・薬価削除プロセスの明確化・簡素化、規格揃え原則の合理化[25]等について、提言されています[26]

    関連して、産業構造検討会報告書では、生産効率向上のため企業間の品目統合が加速すると、生産数量や価格、納入先について企業間で情報交換が行われることが想定されるところ、これが独占禁止法に抵触する懸念が示されていることから、平時に適法に情報交換するにはどのような態様で行えばよいのか、公正取引委員会と整理を行い、ジェネリック医薬品企業に周知を行うべきと指摘されていたところです。この点については、2025年2月17日に厚生労働省及び公正取引委員会が「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造改革のための独占禁止法関係事例集」を公表しており[27]、ジェネリック医薬品企業にとって独占禁止法に抵触することなく品目統合のための情報交換を進める上での一定の指針が示された状況といえます。

    また、2025年5月に成立した薬機法改正では、医薬品の製造方法等について、品質に与える影響が大きくない一部変更について一定期間(40日程度を想定)内に承認を行うとともに、品質に与える影響が少ない軽微変更については、従来の届出に代えて1年に1回の厚生労働大臣への報告で足りるものとされたため[28]、手続きの簡素化の一部について、対策が講じられたものといえます[29]

    イ)安定的な収益と投資の好循環を生み出すための価格や流通のあり方

    産業構造検討会報告書では、品質が確保されたジェネリック医薬品を安定供給できる企業が市場で評価され、結果的に優位となることを目指すことを基本的な考え方として、製造能力、生産計画、生産実績等の企業情報を公表する仕組みを創設すること、また、これらの公開情報を踏まえた評価結果を薬価制度で活用すること等が提言されています[30]。前者については、2024年3月に、安定供給が確保できる企業を可視化し、当該企業の品目を医療現場で選定しやすくするため、企業が公表すべき内容やその方法等を定めた「後発品の安定供給に関連する情報の公表等に関するガイドライン」が策定されており[31]、本ガイドラインに基づき、安定供給体制等に関する情報が各企業のウェブサイトで公表され、各企業のウェブサイトのURLを厚生労働省のウェブサイト[32]に掲載する運用がされています。

    また産業構造検討会報告書では、「オーソライズド・ジェネリック(AG)」[33]のあり方についても提言がなされています。AGは、明確に定義はされていないものの、一般的には、有効成分のみならず、原薬、添加物、製法等が先発品と同一である後発品をいうとされており、先発品と同一の製剤処方で製造されることから、先発品と同様であるといった安心感により市場シェアを獲得しやすい傾向があります。一方で、(i)先発品企業がAGの製造販売業者からライセンス料等を得るケースが多く、形を変えた先発品企業の長期収載品依存となっていること、(ii)AGが薬事承認を取得しても薬価収載されるかが不透明であることが、バイオシミラーなど大規模な設備投資を要する医薬品の参入検討に消極的な影響を与えていること、さらに、(iii)結果的にAGが出なかった場合にジェネリック医薬品企業だけでは十分な供給量を確保できず、安定供給上の問題が生じること、等が問題点として指摘されており、これらの事情を踏まえ、今後のAGのあり方を検討すべきとされています[34]

    さらに、ジェネリック医薬品を適正価格で流通させ、薬価の下支えを行うため、医薬品迅速・安定供給検討会報告書における指摘[35]及び「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」での議論を踏まえて2024年3月に改訂が行われた「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン(流通改善ガイドライン)」[36]の内容を遵守するとともに、過度な薬価差や薬価差の偏在状況を明らかにして、医薬品特有の取引慣行の是正を図り、適切な流通取引が行われる環境を整備するための方策について議論を加速すべきという指摘がされました[37]

    (4)     企業間の連携・協力の推進(④)

    「企業間の連携・協力の推進」では、これまで見てきたような業界の構造的課題への対応にあたり、製造管理・品質管理や安定供給体制の確保のために一定のコストを要すること、また、個社ごとにシェア拡大や品目数の適正化により生産効率や収益性を向上させていくためには、ある程度大きな規模で生産・品質管理等を行っていく体制を構築していくことも有効な選択肢となり得ることを踏まえ、他産業での業界再編に向けた取組も参考にしつつ、企業間の連携・協力の取組を政府において後押しする方策を検討していくべきとされました[38]

    なお、産業構造検討会報告書においては、品目統合のための情報交換や協業、企業統合等については、場合によって独占禁止法に抵触する可能性が考えられるものの、漠然とした抵触の懸念によって前向きな検討が妨げられることを防止するため、厚生労働省において、ジェネリック医薬品企業向けに現行法の範囲内で問題なく行える企業間連携等の事例集を作成・周知することや、相談窓口を設置して独占禁止法上の懸念に関する相談や公正取引委員会への相談のための事務的な手続のサポートを行うことが提言されました[39]。このような提言も踏まえ、2025年2月には、前述3.(3)ア)のとおり、厚生労働省及び公正取引委員会によって「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造改革のための独占禁止法関係事例集」が策定され、また、厚生労働省において、後発医薬品の企業又は品目間の連携・協力に伴う独占禁止法上の質問・相談を受け付ける相談窓口が設置されました[40]。今後は、このような事例集や相談窓口を活用しつつ、品目統合や企業間の連携・協力、事業再編が促進されることが期待されます。

     

    4.     法改正の内容

    以上のような問題の所在や政府の対策の経緯も踏まえ、2025年5月14日、薬機法等の一部を改正する法律[41]が成立しました。今般の改正は、a) 医薬品等の品質及び安全性の確保の強化、b) 医療用医薬品等の安定供給体制の強化等、c) より活発な創薬が行われる環境の整備、及びd) 国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等の4つの観点から必要な措置を講ずることがその趣旨とされているところ[42]、以下では、ジェネリック医薬品供給問題との関係で重要なa)及びb)の観点に基づく改正内容を中心に解説します[43]

    (1)        医薬品等の品質及び安全性の確保の強化(a))[44]

    品質が確保されたジェネリック医薬品を安定的に供給し続けるには、製造管理及び品質管理の徹底が当然の前提になります。このような前提を充足するため、以下の対策が法定されました。

    ①        GMP適合性調査の合理化と監督強化

    ②        法令違反等の場合における製造販売業者等の薬事に関する業務責任役員の変更命令

    ③        製造販売業者における医薬品品質保証責任者及び医薬品安全管理責任者の設置義務の法定化

    ①   GMP適合性調査の合理化と監督強化[45]

    まず、定期のGMP適合性調査について、製造所の不適合リスクの評価に基づき、3年の期間内でリスクの度合いに応じた頻度とすることが可能となり、製造工程区分ごとの適合性調査について、都道府県が調査権者の製造所でも、必要に応じて国(PMDA)も都道府県と協力して調査できるようになったことは、3.(1)で言及したとおりです。

    ②   法令違反等の場合における製造販売業者等の薬事に関する業務責任役員の変更命令[46]

    また、ガバナンス強化についても対策がされました。近年の行政処分事案では、責任役員[47]の関与が認められた事案があり、当該責任役員による業務の遂行は、医薬品等の品質及び安全性の確保に支障をきたすと考えられるにもかかわらず、改正前の薬機法の規制は、総括製造販売責任者等の責任者による製造販売業者等への意見申述義務等、事業者内部におけるガバナンスの整備にとどまり、責任役員主導の違法行為に十分に対応することができませんでした[48]。そこで、今般の改正では、責任役員が原因で薬事に関する法令違反が生じ、当該責任役員を変更しなければ、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するために必要な業務の運営の改善が見込まれないと認められる場合には、厚生労働大臣が医薬品等の製造販売業者及び製造業者に当該責任役員の変更を命ずることができるようになりました。

    ③製造販売業者における医薬品品質保証責任者及び医薬品安全管理責任者の設置[49]

    さらに、これまでGQP(Good Quality Practice)省令やGVP(Good Vigilance Practice)省令に根拠があった「品質保証責任者」及び「安全管理責任者」の設置は、法律(薬機法)上の義務となり、これらの責任者も、責任役員同様、厚生労働大臣による変更命令の対象になりました。

    (2)          医療用医薬品等の安定供給体制の強化等(b))

    ア 医療用医薬品の安定供給体制の整備/安定供給のための報告・要請・指示等

    前述3.(2)のとおり、産業構造検討会報告書では、安定供給責任者の設置など安定供給確保のために企業に求める事項・措置を整理しこれを遵守させるための枠組みを整備することや、平時から需給状況のモニタリングを行い、需給の変動への対応措置を講ずることを可能とする医薬品等の安定供給確保に係るマネジメントシステムの制度的枠組みを検討することが提言されていました。今般の改正では、こうした提言も踏まえ、①医療用医薬品の製造販売業者の安定供給体制の整備を図るとともに、②厚生労働大臣が供給不安を迅速に把握し、安定供給のために必要な要請・指示等を行えるようにするための規定を整備し、また、③電子処方箋管理サービスの調剤データ等を活用した現場の需給状況のモニタリングを実施するといった対策が講じられています[50]。その全体像は以下のとおりです。

    (令和7年度改正概要資料p3抜粋・一部改変)

    イ 後発医薬品製造基盤整備基金の創設

    また、今般の改正により、新たに「後発医薬品製造基盤整備基金」(以下、「本基金」といいます。)が創設されました[51]。ジェネリック医薬品企業における少量多品目生産による生産効率の低下等が生じている現状を踏まえ、本基金は企業に対し、企業間の連携・協力・再編を後押しすることを目的としています。本基金のあり方については、改正法の施行後3年を目途として検討を加え、必要な措置を講ずるものとされていますが、現状は、企業が本基金にジェネリック医薬品の安定供給に向けた品目統合・事業再編等の計画(各年度の設備投資の計画や事業目標、必要経費等を記載したもの)を提出し、本基金が厚生労働省に当該計画を提出し、厚生労働省は必要に応じて公正取引委員会と協議した上で当該計画認定の可否を判断し、計画が認定された場合、企業は本基金による支援を受けられるものとされています。本基金による具体的な支援内容としては、品目統合に伴う生産性向上のための設備整備の経費補助や、品目統合や事業再編に向けた企業間での調整にかかる経費補助等が想定されています[52]

    ウ 製造方法の変更時における薬事手続きの合理化

    品目統合や生産効率向上のため、薬事に関する手続きの合理化が必要であると考えられるところ、今般の薬機法改正では、医薬品の製造方法変更時の手続きの合理化が実現しました。前述3.(3)ア)のとおり、品質に与える影響が大きくない一部変更について一定期間(40日程度を想定)内に承認を行うとともに、品質に与える影響が少ない軽微変更については、従来の届出に代えて1年に1回の厚生労働大臣への報告で足りるものとされました[53]

     

    5.     今後の展望

    ここまで見てきたように、今般の薬機法等改正では、産業構造検討会報告書で言及されていた「製造管理・品質管理体制の確保(①)」、「安定供給能力の確保(②)」、「持続可能な産業構造(③)」及び「企業間の連携・協力の推進(④)」の各項目について、幅広く対策が講じられたものといえます。ただ、今般の改正で終わりではなく、施行後、本当にジェネリック医薬品の供給問題が解消に向かっていくのか、きちんとした安定供給体制が事業者において確保されるのか、新たに設けられた諸義務が遵守されていくのかなど、政府には適切なフォローアップが求められる[54]とともに、民間にいる我々としても実際の効果の程を見守っていくことが必要です。

    また、それぞれの改正事項については、段階的な施行が予定されており、例えば、責任役員の変更命令(4.(1)②)や、「供給体制管理責任者」の設置義務(4.(2)ア)については、公布から2年以内、医薬品の製造方法変更時の手続きの合理化(4.(2)ウ)については、公布から3年以内に、それぞれ施行されることとなっています[55]。一定の準備期間は必要であるものの、医薬品の品質・安全性・安定供給について現場を取り巻く環境は深刻であり、1日でも早く必要な法令等の改正を実行し、今の状況を少しでも改善するように努めてほしいとの現場の声[56]を完全に汲み取れているか、一定の疑問が残ることは否定できません。

    いずれにせよ、政府においては、硬直的な対応に終始せず、施行状況等に応じたジェネリック医薬品供給問題の改善状況等を常に注視し、ガイドラインの発出等も活用しながら、今後も柔軟な対応を行っていくことが重要になってきます。

    このニューズレターは、現行の又は予想される規制を網羅的に解説したものではなく、著者が重要だと考える部分に限って、その概要を記載したものです。このニューズレターに記載されている意見は著者個人の意見であり、プロトタイプ政策研究所および渥美坂井法律事務所・外国法共同事業(以下、「当研究所」および「当事務所」)の見解を示すものではありません。著者は明白な誤りを避けるよう合理的な努力は行いましたが、著者も当研究所および当事務所もこのニューズレターの正確性を保証するものではありません。著者も当研究所および当事務所も読者がこのニューズレターに依拠することによって生じる損害を賠償する責任を負いません。取引を行う場合には、このニューズレターに依拠せずに当事務所の弁護士にご相談ください。

    本ニューズレターのPDF版はこちらからご確認いただけます。


    [1] 後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会報告書(要約版)p1

    [2] 令和6年度薬価改定時点では、後発品の収載時における薬価算定ルールは先発品の薬価に0.5を乗じた額(新規後発品が7銘柄を超える内用薬である場合、対応する先発品の薬価に0.4を乗じた額、バイオ後続品については、対応する先発品の薬価に0.7を乗じた額)とされています(厚生労働省保険局長「薬価算定の基準について(保発0214第1号)」(令和6年2月14日)第2章第2部1イ・ロ、中央社会保険医療協議会 薬価専門部会(第225回)薬-1参考1「現行の薬価基準制度(概要)」p18)

    [3] 後発医薬品(ジェネリック医薬品)及びバイオ後続品(バイオシミラー)の使用促進について |厚生労働省

    [4] 新規受注の制限や、受注量の抑制を通して出荷量を調整することをいいます。(後掲「医薬品迅速・安定供給検討会報告書」p3注2)

    [5] 産業構造検討会報告書p3-4

    [6] 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(第6回)資料2-1p1

    [7] 同上p2、産業構造検討会報告書p3

    [8] 産業構造検討会報告書p3

    [9] 同上p4

    [10] 医薬品迅速・安定供給検討会報告書p3-6

    [11] 同上p4

    [12] 厚生労働省医政局長「後発医薬品の安定供給について(医政発第0310003号)」(平成18年3月10日)

    [13] 医薬品迅速・安定供給検討会報告書p6

    [14] 同上p6

    [15]具体的には、最低薬価については設定されていない剤形区分があること、不採算品再算定(原価等の著しい上昇が認められるもの等について、一定の場合に原価計算方式によって算定される額を薬価とする制度)については2年に一度の適用ではコスト増の薬価への反映に時間を要すること、基礎的医薬品(長期間臨床現場での使用実績があり、医療上の必要性の高い医薬品として指定された品目について、不採算となる前に薬価を維持する制度)については薬価収載後25年以上経過した品目に限られること等が制度として不十分な点として挙げられます(同上p7、医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会(第10回) 資料1 「医薬品の安定供給について②」P7-20)。

    [16] 後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会(第6回)資料3p8によれば、令和3年度時点において日本の後発医薬品原薬の6割程度は輸入とされています。

    [17] 医薬品迅速・安定供給検討会報告書p7

    [18] 同上p8

    [19] 厚生労働省「安定供給の確保を基本として、後発医薬品を適切に使用していくためのロードマップ」(令和6年9月30日)

    [20] 具体的な取り組みとしては、(1)安定供給・国民の信頼確保に向けた取組として、①品質確保に係る取組:PMDAと都道府県との合同無催告立入検査の実施、業界団体が推進する後発医薬品メーカーにおける自主点検の実施、外部研修や品質管理を重視した人事評価等によるクオリティカルチャー醸成に向けた人材育成等、②安定供給に係る取組:供給不安報告及び供給状況報告制度の整備、後発医薬品企業による安定供給に係る情報の公表、安定供給確保に係るマネジメントシステムの法的枠組の検討等が、また、(2)新目標の達成に向けた取組として、①使用環境の整備に係る取組:的を絞った使用促進を図るため、数量ベースに加え、金額ベースでの薬効分類別等の後発医薬品置換率情報の提供、差額通知事業の推進による患者メリットの周知等、②医療保険制度上の事項に係る取組:製薬産業を長期収載品依存型から高い創薬力を持つ研究開発型のビジネスモデルへ転換させるため、長期収載品の保険給付の在り方の見直し選定療養の仕組みを導入等が、それぞれ挙げられています。

    [21] 産業構造検討会報告書p11-13

    [22] 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)概要資料(以下、「令和7年度改正概要資料」といいます。)p9

    [23] 産業構造検討会報告書p14-18

    [24] 令和7年度改正概要資料p3

    [25] 規格揃え原則とは、後発医薬品の薬価基準への収載にあたり、標準製剤となった先発品が有する規格を全て揃えて申請することが求められるという原則のことをいい、例外として、医療上必ずしも必要でないと考えられる規格については、厚生労働省に個別相談の上、全規格揃えの対象外とすることも可能とされています(「後発医薬品の必要な規格を揃えること等について」(平成18年3月10日医政発0310001号厚生労働省医政局通知))。需要の少ない規格については赤字の原因となる場合があるため、安定供給が求められる収載後5年間を経過した後は、医療現場での使用状況を踏まえ、医療上の必要性等に照らして全規格を取り揃えることが必ずしも必要ではないと考えられる品目については一部の規格のみであっても供給停止・薬価削除ができるよう合理化すべきと提言されています。

    [26] 産業構造検討会報告書p19-21

    [27] (令和7年2月17日)「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造改革のための独占禁止法関係事例集」の策定について | 公正取引委員会

    [28] 令和7年度改正概要資料p9

    [29] 本文で言及した事項のほか、産業構造検討会報告書公表後、供給停止・薬価削除プロセスの明確化・簡素化についても通達の発出により一定の手当がなされています(「医療用医薬品の供給停止及び薬価削除について」(令和6年8月7日医政産情企発0807第1号保医発0807第2号医療用医薬品製造販売業者代表者あて厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課長、厚生労働省保険局医療課長通知)

    [30] 産業構造検討会報告書p21-23

    [31] 「後発品の安定供給に関連する情報の公表等に関するガイドライン」の策定について(令和6年3月29日医政産情企発0329第7号厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課長通知)

    [32] mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/02_00001.html

    [33] 産業構造検討会報告書p23注23

    [34] 産業構造検討会報告書p23

    [35] 医薬品迅速・安定供給検討会報告書において、医薬品の取引において、メーカー、卸売業者、保険医療機関及び保険薬局といった流通関係者全員が、流通改善ガイドラインを遵守し、医薬品特有の取引慣行や過度な薬価差、薬価差の偏在の是正を図り、適切な流通取引が行われる環境を整備していくべきであるとの指摘があったことが改訂の契機とされています(「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」(令和6年3月1日改訂)p2-3)。

    [36] 2024年3月1日付の改訂版では、基礎的医薬品や安定確保医薬品、不採算品再算定品等について、従来の総価取引ではなく、単品単価交渉(他の医薬品の価格の影響を受けず、地域差や個々の取引条件等により生じる安定供給に必要なコストを踏まえ、取引先と個別品目ごとに取引価格を決める交渉)を行うこと、価格交渉代行を利用した場合に流通改善ガイドラインを遵守させること、原則、年度内は妥結価格の変更は行わないこと、返品や一社流通における取扱い等の内容が盛り込まれました(「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」の改訂について(令和6年3月1日産情発0301第2号保発0301第6号厚生労働省大臣官房医薬産業振興・医療情報審議官・保険局長連名通知))。

    [37] 産業構造検討会報告書p23-24

    [38] 産業構造検討会報告書p25-26

    [39] 産業構造検討会報告書p26-27

    [40] 後発医薬品産業の構造改革に伴う独占禁止法関係相談窓口|厚生労働省

    [41] 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第37号)。薬機法のほか、医療法、麻薬及び向精神薬取締法、薬剤師法、国立研究開発法人医療基盤・健康・栄養研究所法も併せて改正の対象となっています。

    [42] 令和7年度改正概要資料p1

    [43] 本文にて言及した内容のほか、今般の薬機法等の改正により、以下の内容が法定されました。

    ·             条件付き承認制度の適用拡大(c))

    ·             小児用医薬品の開発計画策定の促進(c))

    ·             革新的医薬品等実用化支援基金の創設(c))

    ·             薬剤師等の遠隔管理下での一般用医薬品販売、薬局の調剤業務の一部外部委託(d))

    ·             医薬品の販売区分及び販売方法の見直し(d))

    これらの内容は、ジェネリック医薬品供給問題と直接の関係はないものと考えられますが、ジェネリック医薬品を含む医薬品全般に影響するものであり、施行スケジュール等について注視する必要があると考えられます。

    [44] 本文にて言及した内容のほか、本項目に関連する改正内容として、一定の医薬品の製造販売業者に対する副作用に係る情報収集等に関する計画の作成、実施の義務付け等も盛り込まれています。

    [45] 令和7年度改正概要資料p9

    [46] 令和7年度改正概要資料p2

    [47] 「責任役員」とは、各役員が分掌する業務の範囲を決定した結果、その分掌する業務の範囲に、薬事に関する法令に関する業務(薬事に関する法令を遵守して行わなければならない業務)が含まれる役員を指し、代表取締役及び薬事関連の業務を担当する取締役がこれに当たります。

    [48] 薬事法等制度改正に関するとりまとめ(令和7年1月10日厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会)p2

    [49] 令和7年度改正概要資料p2

    [50] 令和7年度改正概要資料p3

    [51] 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所法の改正により、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の業務に制度の対象となる後発医薬品製造販売業者等に対する必要な資金の交付その他の支援及びその附帯業務が追加され、これらの業務に要する費用に充てるために本基金を設けることができるものとされています(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の公布についてp18-21)。

    [52] 令和7年度改正概要資料p4

    [53] 令和7年度改正概要資料p9

    [54] 令和6年度第9回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会議事録

    [55] 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の公布について

    [56] 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(第20回)の議事録|厚生労働省

    この記事に関連する研究会メンバー及び研究員

    その他の参加者


    藤井貴大(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士/プロトタイプ政策研究所研究員)

    その他のレポート