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2024/10/2

デジタル時代に即したルール作りは今のルールを疑うこと【羽深宏樹/プロトタイプ政策研究所メンバーインタビュー】

    プロトタイプ政策研究所メンバーの羽深宏樹先生はAIなどの最先端デジタル技術に関するルール作りや政策提言に邁進されています。その原点はスタンフォード大留学。これまでの法律家としての考え方を覆される経験をされ、アジャイルガバナンスの取り組みを深められます。弁護士でありながら京都大学特任教授、企業CEOを務める羽深先生のこれまでに迫りました。

    【羽深 宏樹 プロフィール】

    京都大学大学院法学研究科 特任教授・弁護士/スマートガバナンス株式会社代表取締役CEO/弁護士(日本・ニューヨーク州)/プロトタイプ政策研究所メンバー

    森・濱田松本法律事務所、金融庁、経済産業省等を経て現職。東京大学法学部・東京大学法科大学院(2010年修了)、スタンフォード大学ロースクール卒(フルブライト奨学生)。2020年、世界経済フォーラム及びApoloticalによって「公共部門を変革する世界で最も影響力のある50人」に選出された。主著に『AIガバナンス入門 — リスクマネジメントから社会設計まで』(ハヤカワ新書)。AIガバナンス協会理事、東京大学客員准教授、及びCSIS(戦略国際問題研究所)ノンレジテントフェローも務める。


    「判例に照らす」だけではない。新しいルール作りのあり方に衝撃を受けた米国留学

    ーまずは羽深先生の専門分野についてお伺いさせてください。

    最近はAI、データといった最先端のデジタル技術におけるルール作りに関する仕事をしています。国だけではなく、企業においても責任を持ってイノベーションを実装できないといけないという思想から、国・企業双方へ、ルール作りにおける研究をもとにアドバイスを行っています。

    ー現在のお仕事にされるにあたって、先生に問題意識や、研究へのモチベーションになった出来事はあったのでしょうか?

    きっかけは弁護士4年目の留学です。留学先のスタンフォード大学は、AppleやGoogleなど世界を牽引するビッグテック企業がそこら中にあり、スタートアップが毎日生まれるシリコンバレーの中心地にありました。学生も、実務家の人たちも「今あるものを壊して、新しく作ろう」というマインドセットを持っていましたね。

    だからこそ、ロースクールですら、新しく出てきたイノベーションにルールを合わせていくアプローチをとっていて、衝撃を受けました。日本では、過去の事例・判例に基づいて今のルールを作る方法を叩き込まれてきたので。「今のルールはこうだけど、新しくてイノベーティブなテクノロジーが出てきた。これについてどういうルールを作ったら良いか?」という議論を目の当たりにしたんです。

    いつまでもルールを作る側が過去に縛られて「判例に照らしている」だけではダメだと痛感しました。同時に、新しいテクノロジーに対する新しいルール・制度作りのアプローチを、日本でもやりたいと思ったんです。

    ーデジタル分野でのルール作りを専門的に取り組まれるなかで、日本で行う難しさはありますか。

    そうですね…日本の社会的文化的な特徴は、良くも悪くもすごく真面目なことですよね。

    一旦ルールを定めると、日本では「このルールを遵守する」という考えにとらわれがちです。ルールを変えるのも大変ですし、異様にリスクや事故を避けたがる、嫌うところがあります。

    プラスとマイナスを合わせたとき、最終的にどれだけの差分でプラスが大きいかを考えるのではなく、プラスがどうであれ、マイナスが少ない方がいいというマインドセットになりがちです。

    例えば、AIのリスクをゼロにする、一番いい方法って何だと思いますか?

    ーAIを使わないようにすることでしょうか・・・・・?

    正解です。結局、何もやらないのが一番安全なんですよね。

    リスクを承知で前に進む。結果どうだったかは、リスクだけじゃなくベネフィットも含めて総合的に判断する。ここだけ聞くとそうだよねと言われるんです。しかし実際に、現場で自分がリスクを起こしてしまったとき、批判に耐えられるかを考えると足がすくんでしまう場面が多いでしょう。

    そういったところを社会全体の意識として、根本的に変えていきたいですね。

    ルールを守るだけではなく、そのルールが本当に正しいのか疑う。今の環境に即しているか議論しアップデートする。それは、どんなに優秀でも、霞が関の役人さんや国会議員さんだけでできる話ではありません。現場をよく知っている民間企業の方、あるいは市民一人ひとりがきちんと評価しながら進めていく。それが新しいテクノロジーを社会にプラスになるよう実装していくことだと思っています。

    民間の政策提言集団として、社会のために課題に向き合うプロトタイプ政策研究所

    ―次にプロトタイプ政策研究所へ入られたきっかけについてお聞かせください。

    所長の落合先生とは、私が経産省に出向していたときに出会いました。当時私は「アジャイルガバナンス」という環境変化に応じてアジャイルにルールを作っていくというコンセプトを打ち出した報告書を書いており、落合先生は専門家として検討会の委員に入っていただいていたんです。

    私が経産省から離れた後も今後の政策のあり方について意見交換をする機会が度々あり、その流れで落合先生が研究所を立ち上げるタイミングでお誘いいただきました。

    ―実際にプロトタイプ政策研究所に入られてみて魅力に感じた点はありますか。

    いろいろありますが…まず、皆さん様々なバックグラウンドをお持ちです。

    弁護士さんだけじゃなくて、経済学の小島先生もいらっしゃいますし、スタートアップの方、ずっと政策提言されてきた方など、様々な専門分野の方がいらっしゃる。なおかつご自身の専門だけではなく、分野を横断してアップデートし状況を変えていこうと、皆さん高い意識を持って取り組まれています。私自身もお話を伺っていると、様々な視点を得られて勉強になります。

    また、現状を変えようとしているのは自分だけじゃないという、仲間意識のようなものも得られました。プロトタイプ政策研究所の活動は、国のため社会のため、という問題意識で様々な課題に専門家の方たちが真摯に取り組まれています。

    しかもこうした政策提言を民間の自主的な取り組みとして行っているからこそ、発言の自由さや分野を超えた交流が確保されているのではないでしょうか。

    海外では、こういう民間シンクタンクや政策提言組織があり、政策にも影響力を持っています。今まさに世界全体で、マルチステークホルダーのルール作り・政策作りをどうやって進めていこうかと議論しています。プロトタイプ政策研究所が具体的に実践できている組織になっているのは、日本社会全体にとって非常に意味のあることだと思います。

    ―ありがとうございます。では、これからのプロトタイプ政策研究所の展望はありますか?

    世界的に見ても面白い政策提言を出していると思うので、今後は国際的な繋がりが出てくるといいですね。

    例えば個人情報保護法の見直しに関する提言内容は、日本の個人情報だけではなく世界のプライバシー規制にも当てはまる話だと思います。それから「アジャイルガバナンス」という考え方自体も、世界の中で見ると、日本は先端的な整理をしています。そういったところを世界に発信していけると、より研究所のプレゼンスが上がるのではないでしょうか。

     

    カジュアルにアジャイルガバナンスや政策提言ができる社会の実現へ

    ―最後に、今後羽深先生が活動されている分野でどのような展望を持ってらっしゃるのか教えてください。

    我々がずっと議論してきたアジャイルガバナンスの根本にある思想は、「政府は細かいルールを決めるのではない。各民間企業や組織が自分たちなりのルールを作り、それをステークホルダーに説明して理解を得る。その活動を通じて積極的にイノベーションに取り組んでいくというあり方を目指すべきだ」というものです。

    言うのは簡単ですが、実装するのはすごく難しい。企業はこれまで、上(政府)から降ってくるルールに対応するように活動してきたからです。自分たちでどのようにリスクを把握・評価して、ステークホルダーと継続的に対話を重ねていくか。そんな「実装するためのノウハウ」が社会の中に蓄積されてない状況です。

    だからこそ、どうやって現場で実装するのかという課題を、私の今後10年ぐらいのテーマにしたいと思っています。

    ―具体的にはどのような活動をされるご予定ですか?

    どの企業も方法がわからないわけですから、草の根的に各企業に対してアドバイスを提供するところから始めざるを得ないんです。そこで落合先生と始めたのがスマートガバナンスという会社ですが、1社1社、テーラーメイドでやっていてもスケールしていかない。

    みんなが気軽に自分たちが正しいと思ったことをやれる仕組みやツールが必要だと感じています。システムを活用しながら、専門知識がなくても、あるいは深刻にならなくても継続的に議論してアップデートし続けられる仕組みを作っていきたいですね。

    ルール作りの面でも、テクノロジーを導入して、本当にあるべき民主主義の姿を目指して倫理の実装をしていく。基本的人権の実現を、社会全体の人たちが自分事として捉えられる仕組みを作っていけたらと考えています。

    (インタビュー:降籏捺妃、写真:福知佳那子、編集・執筆:渡部梓)

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