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2026/2/24

 DX時代の統治システムと人材論-2025年9月12日開催NoMaps「DX時代の統治システムをマップする」レポート 

    デジタルトランスフォーメーション(DX)は、ビジネス領域だけでなく、社会の基盤である統治システムのあり方そのものの変革を促す存在になりえるか―2025年9月に開催された「NoMaps Government」におけるセッション「DX時代の統治システムをマップする」は、日本の統治構造と、それを支え、あるいは変革していく人材のあり方を検討する場となった。プロトタイプ政策研究所のメンバーの議論の要旨をご紹介する。

    新たな潮流としての「広域連携」構想

    都道府県という既存の枠組みを超えた「広域連携」に関する議論の動向、背景についてまず整理する。

    政治的背景:「令和の日本列島改造」というビジョン 石破茂首相(当時)が提唱する「地方創生2.0」の流れの中で「広域リージョン構想」が具体化し始めた。これは、国が主導して地方創生の新たな形を模索する動きであり、従来の県単位での政策展開の限界を乗り越え、より大きな経済・生活圏を単位として国家戦略を再構築しようとする意志の表れと言える。

    経済界からの要請:「バーチャル道州制」というアプローチ 経団連からも、「FUTURE DESIGN 2040」などで、物理的な行政区画の再編を伴わない柔軟な連携モデルとして「バーチャル道州制」が提唱されている。これは、DXがもたらす地理的制約からの解放を最大限に活用し、ビジネスやイノベーションの創出に必要なスケールメリットを確保するための現実的なアプローチである。

    具体的な動き:各地域で始まる先進事例 こうした構想は、すでに具体的な動きとして各地で始まっている。九州では首長が集う「九州府勉強会」が発足し、関西では「関西広域連合」が活動を活発化させている。これらの動きは、各地域が主体となり、官民連携で新たな広域リージョンを形成しようとする試みであり、今後のモデルケースとして注目される。

    北海道と九州の役割:先行モデルとしてのポテンシャル 特に、九州と北海道は、地理的・行政的に本州から独立したパッケージとして捉えやすく、新しい統治モデルの先行事例となりうるポテンシャルを持つ。落合氏が指摘するように、北海道はその広大さと、複数の都道府県にまたがる面積の自治体を道が束ねているがゆえに「最初から広域連携しているようなもの」という特性を持ち、道内での連携ノウハウは、他地域の広域連携モデルを構築する上で貴重な示唆を与える可能性がある。

    これらの広域連携の動きは、デジタル技術による遠隔での情報共有や行政サービス提供を前提としている。それゆえに、この構想は従来の行政課題を解決する大きな可能性を秘めているが、同時に、DXを実践し、変革を進めていく上での新たな課題をも浮き彫りにする。

    DX推進の現実:理想と実践の狭間で生じる課題

    DXのメリットは大きいものの、その実践においては数多くの障壁が存在する。本セクションでは、DX推進の現場で生じる現実的な課題を深掘りする。

    DX推進における障壁は、大きく二つの側面に分類できる。

    制度的・物理的制約の壁

    行政区域が阻むデジタルの利点: 宮田氏が指摘したように、デジタルの最大の利点は「物理的な地域の制約を乗り越えることで合理性を発揮する」点にある。しかし、現行の都道府県や市町村といった行政区域に固執した制度設計は、この利点を根本から損なうリスクを孕んでいる。職員や議員の定数など、区域に閉じた行政の仕組みが、かえって非効率を生む可能性もある。これらをゼロベースで検討できる環境が整うとさらにDXの合理性が加速する可能性がある。

    全国最適化を妨げる地域の慣習: 小泉美果氏が挙げた「就労証明書」が各自治体で書類様式や記載ルールが異なる     事例のように、全国共通のデジタルフォーマットを導入すれば関係する組織それぞれの生産性が向上するにもかかわらず、各自治体の「今までの経緯」や慣習が壁となり、統一が進んでいない。これは、地域の慣習や部分最適が、国全体の最適化を妨げる構造的な問題を示唆している。

    変革プロセスの過渡期における課題

    既存プロセスの合理性: DXをはじめとする変革を行う上で見落とされがちなのが、「今までのやり方にも合理的な部分がある」「変化をすること自体がリスクになる」という事実である。全ての旧来プロセスが悪であるという前提に立つのではなく、なぜそのプロセスが維持されてきたのかを理解し、その合理性を新しいシステムにどう組み込むかを考えなければ、現場の抵抗を招き、変革は頓挫する。

    デジタル時代の地方自治とデータ統一の両立モデル:小泉美果氏が提唱したアプローチは、この過渡期の課題に対する単なる技術的解決策以上の意味を持つ。全国共通のデータ項目を設定しつつ、ある自治体では不要な項目は「null(空欄)」で許容するという手法は、「全国標準化」と「地域自律性」のバランスを取るための現実的な方法論である。これは、歴史的経緯を尊重しつつ全体の効率性を追求する、DX時代の両立モデルであり、同様の抵抗に直面する他の取り組みにとっても価値あるテンプレートとなり得る。

    これらの課題は、技術的な困難さよりも、むしろ制度、組織、そして人々の意識に関わる問題である。したがって、これを乗り越えるためには、技術論だけに終始するのではなく、変革のプロセスそのものを理解し、多様なステークホルダーをまとめ上げながら推進できる「人材」こそが、最も重要な鍵となる。

    変革の中核を担う人材:求められる新たな役割と能力

    DX時代の統治システム変革に関する議論は、最終的に「どのような人材が必要か」という問いに行き着く。いかに優れた技術や構想があっても、それを現実に落とし込み、組織や社会に定着させるのは「人」の役割だからである。これからの変革を担う人材に求められる役割と能力を考察した。

    「翻訳者」的役割の重要性

    民間でも本部が導入する新システムと現場の業務実態との間に入り、双方の言語を「翻訳」し、現場の納得感を引き出す「共感力」を持つような人材は、変革の潤滑油として不可欠である。同様に、宮田氏が指摘するように、官民連携やDXの現場では、多様なステークホルダーがそれぞれの立場から意見を主張する中で、各者の主張の本質を見抜き、全体最適の観点から利害を調整する機能が極めて重要になる。この能力は、変革プロジェクトを成功に導く推進力となる。

    評価と育成システムの変革

    貢献の可視化と正当な評価: 稲谷氏の提言は、この課題に対する一つの解を示唆する。パーソナルデータを利活用し、組織内でのコミュニケーションや貢献度を分析することで、これまで定性的にしか把握できなかった「潤滑油」としての貢献を客観的に可視化できる可能性がある。これにより、個々の能力を正当に評価し、適材適所を実現する新たな評価システムを構築できるかもしれない。

    未来から逆算した人材育成: 東氏が提示した「青い課題(顕在化したスキル不足)」への対処は重要だが、それだけでは未来の変革に対応できない。重要なのは、AIの進化など未来の社会構造の変化から逆算し、これから必要となる能力を定義する「赤い課題」を設定し、戦略的に人材を育成していく視点である。

    越境する人材とマインドセット

    専門性の壁を越える好奇心: 稲谷氏が指摘するように、複雑な課題解決には、自身の専門分野に閉じこもらず、他分野に強い関心を持ち、積極的に境界を越えて学ぼうとするマインドセットが不可欠である。異なる分野の知見が交差する点にこそ、イノベーションの源泉がある。

    AIが創出する新たな学習時間: 生成AIなどの活用により、従来多くの時間を要していた情報収集や資料作成といった作業が効率化される。稲谷氏が示唆するように、そこで生まれた時間を他分野の学習やネットワーキングに充てることで、こうした「越境人材」を組織的に育成していくことが可能になる。

    変革を担うのは、決してスーパーマンのような個人である必要はない。しかし、ここで挙げたような「翻訳」「調整」「越境」といった能力を持つ人材が組織内で正当に評価され、その能力を発揮できる仕組み、すなわち組織やガバナンスのあり方そのものが、今まさに問われているのである。

    新時代の組織とガバナンス:変革を許容し、促進する仕組みへ

    人材論から一歩進んで、個々の能力が最大限に発揮されるための土壌、すなわち組織・制度論へと視野を広げることが不可欠である。本セクションでは、変革を許容し、むしろ促進する力となる新しい組織とガバナンスのあり方を考察する。

    組織文化の変革と内発的動機の重要性

    「外圧」による改革の限界: 落合氏は、改革の力学を「外圧」と「内発的動機」の対比で示した。真の変革は、トップダウンの命令などの外からのアプローチではなく、共有された危機感とビジョンから前進する事例が多いと指摘している。

    セクショナリズムがもたらすリスク: 稲谷氏は研究領域である企業犯罪の事例から、組織の縦割りは弊害をもたらすと指摘した。各部門が自らの責任回避を最優先する「セクショナリズム」は、組織全体の視野を狭め、問題の発見を遅らせ、最終的に組織を崩壊させるリスクを孕んでいる。

    公務員組織のあり方

    「変えること」を評価する仕組みへ: 公務員組織が「変えないこと」を安全策とし、「変えることのリスクテイク」を評価しない文化のままでは、社会全体の変革は停滞せざるを得ない。小泉美果氏が述べたように、前例踏襲主義から脱却し、社会課題の解決に向けた挑戦的な取り組みを正当に評価する人事制度や組織文化への転換が急務である。

    アジャイル・ガバナンスの実装

    未知のリスクに対応する新たなアプローチ: 稲谷氏が専門とする「アジャイル・ガバナンス」は、未来が予測困難な時代における統治の新しいモデルを提示する。これは、最初から完璧なルールを作るのではなく、技術者、利用者、規制当局といったマルチステークホルダーが協働しながら、社会実装を進める中で出てくる未知のリスクに柔軟に対応し、継続的にシステムを更新していくアプローチである。自動運転やAIといった先端技術の社会実装には、こうした試行錯誤を許容するガバナンスが不可欠となる。

    おわりに

    変革を担う「人材」、彼らが活動する「組織」、そしてその活動のルールとなる「ガバナンス」は、三位一体で変化することにより、その効果が発揮される。変革的な組織文化(内発的動機)の醸成は、公務員も含めた現場の人材の役割をリスクテイクを許容するものへと再定義するための前提条件となる。そして、そのような文化と人材が揃ってはじめて、アジャイル・ガバナンスのような先進的な手法が理論から実践へと移行し、有効に機能するのである。これらの要素が相互に作用し、ポジティブなフィードバックループを生み出すことによってはじめて、真に人口減少等による供給制約、進化するデジタル技術の活用という、時代の要請に応える統治システムが実現する。

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