政策提言・意見書 一覧
2023年4月28日
CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する提言
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
プロトタイプ政策研究所
提言No.0002
金融
CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する提言
~CBDC(中央銀行デジタル通貨)導入「目的」の明確化とその可変性確保を~
提言の骨子
CBDC(中央銀行デジタル通貨)の導入に際して考えられる多くの課題は複合的であるため、個別に課題を検討するのではなく、最上位に位置される導入の「目的」の明確化と、「目的」を踏まえた具体的な課題の整理が必要であると考える。本稿では仮の設定ではあるが「金融包摂・ユニバーサルサービス」を最上位の「目的」とした場合において、CBDC導入時の各課題の検討を行った。
なお、最上位の「目的」については、今後のイノベーションの進展、内外の経済環境、国民意識の変化などにより変わり得るものと考えられるため、アジャイル・ガバナンスの視点が重要であり、「目的」変更時のステークホルダーの柔軟な対応態勢の確保と、メディア・国民を含めてのこの柔軟性への理解促進が、今後のCBDC導入にあたっての重要な要素となる。
提言
1.CBDCの現状
CBDC(Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨)は中央銀行が発行するデジタル通貨のことである。いわゆる電子マネーが基本的には現金を代替する形で民間企業が発行する(=負債を負う)のに対して、CBDCは同じデジタルの形式ではあるが、中央銀行が発行する(=負債を負う)点に違いがある。CBDCの議論は従来法人ユーザー向け(ホールセール)のユースケースが議論されていたが、Libra構想の公表後に世界各国で中央銀行が自らデジタル通貨を発行することを検討しなければならないのではないかという議論が起こり、個人ユーザー向け(リテール)のユースケースに関する議論が進められた(*1)。
CBDCについては世界中で実証実験や調査が進められてきており、各国の中央銀行が高い関心を有していることがうかがわれる。日本においても日本銀行がフェーズ2までの実証実験を終了し、2023年4月よりパイロット実験を実施する予定(*2)であり、かつ累次にわたり調査報告書も公表(*3)されているところである。
なお、現時点において日本銀行は「CBDCを発行する計画はない」としている(2023年2月時点)(*4)。現在の実証実験なども、あくまでも「今後、CBDCに対する社会のニーズが急激に高まる」可能性も想定して「しっかり準備しておくことが重要」という認識に基づく対応であると表明しており、これらの表現からは、日本銀行は性急にCBDCを導入しようとしているというよりは、今後に備えて準備だけは怠らないようにしておく、というスタンスが垣間見える。
海外の中央銀行も同様のスタンスで、特に先進国の中央銀行においては、準備や事前検討は着実に行いつつも、CBDCの具体的な導入時期のコミットなどは、今のところ多くは見られない。現時点でCBDCを正式に導入しているのは、金融サービスの恩恵を受けられない(Unbanked/Underbanked)層の国民が一定割合で存在する、あるいは現金の流通システムを独自に保持することのコストが高い島嶼国などに限られているところであり(*5)、また、普及率もまだ高くはない状況である(表1)。
(表1) CBDC導入国、導入時期、普及率
国名 | CBDC名称 | CBDC導入時期 | 普及率 | |
バハマ | Sand Dollar | 2020年10月 | 1%未満 *1 | |
ナイジェリア | e-Naira | 2021年10月 | 0.4% *2 | |
ジャマイカ | Jam-Dex | 2022年6月 | 6.5% *3 |
(各種資料より当研究所作成)
*1 バハマ中央銀行総裁発言より。発行通貨に対するCBDCの割合https://www.globalgovernmentfintech.com/bahamas-central-bank-cbdc-sand-dollar-first-two-years/
*2 ウォレットダウンロード数(94.2万件)を同国人口(2億1,340万人)で除した数
ウォレットダウンロード数(IMF報告書)https://www.elibrary.imf.org/downloadpdf/journals/002/2023/093/002.2023.issue-093-en.xml
人口(世界銀行サイト) https://data.worldbank.org/indicator/SP.POP.TOTL?locations=NG*3 ウォレット登録数(18.5万件)を同国人口(282.8万人)で除した数
ウォレット登録数 http://radiojamaicanewsonline.com/business/jam-dex-uptake-gradually-increasing-clarke
人口(世界銀行サイト) https://data.worldbank.org/indicator/SP.POP.TOTL?locations=JM
このような中央銀行のCBDC導入に向けた速度感やスタンスの背景には、後述するCBDC導入に際しての、複合的な課題が多数あることが考えられる。しかしながら、キャッシュレス化はスマートフォンの普及とともにグローバルレベルでも近年飛躍的に進展しており、どこかのタイミングで生じるであろうCBDC導入の必要性を適切に検討するためにも、まずは導入に関する課題の検討が必要となる。
なお、CBDCは個人や企業などの多様な主体が利用する「一般利用型CBDC」と、主に金融機関などの大口取引に利用される「ホールセール型CBDC」に大別されるが、断りのない限り本稿では「一般利用型CBDC」を議論の対象としている。
2.CBDC導入時の「課題」
CBDC導入に向けた課題としては技術面・制度面・ビジネス面でそれぞれ考えられるが、技術面では日本銀行において先行的に実証実験などでも詳細に検討がなされているため、本稿では専ら制度面・ビジネス面での課題に焦点を当てることとする。
制度面・ビジネス面での課題については、「強制通用力の付与」「ユニバーサルサービスとしての位置付け」「現金の扱い」「民業圧迫回避」「AML/CFTと匿名性確保の両立といった課題が存在する。
以下に各課題の内容を記述する。
(1) 強制通用力、ユニバーサルサービスとしての位置付け及び現金の扱い
日本銀行の発行する現金(紙幣=日銀券)は決済時に店舗などで受け取り拒否をすることはできないという、いわゆる「強制通用力」が日本銀行法により規定されている(日本銀行法第46条第2項)。
CBDCにも同様に強制通用力を持たせる場合には、上記同様に店舗(マーチャント)などでの受け取り拒否ができなくなるが、CBDCの取扱いに必要な通信回線・端末・アプリなどがユニバーサルに提供されなければ、強制通用力を持たせられることへの国民の反発を招きかねない。現在でも民間電子決済サービスにおいて、サービスが受けられる店舗を増やす、いわゆるマーチャント開拓には多大な先行投資が必要な側面があり、CBDCの場合はこのコスト負担が更に増大するおそれがある。
(参考)CBDCの送金機能のユニバーサルサービス性を考える際に、アナログ的な手法ではあるが、郵便による為替証書(普通為替証書、定額小為替証書)の送付が参考となる。
郵便法により、郵便は全国への配達がユニバーサルサービスとして規定されているため※1送達性は確実である。また、為替証書を利用すれば金融機関への口座開設も不要であるため、金融機関にも依存せず受領可能※2という特性があり、為替証書の郵送は最も「強力」な送金のユニバーサルサービスの一つと考えられる。
CBDCのユニバーサルサービス性検討の際には、上記のとおり根幹となる通信回線のカバレッジ、端末(場合によりカードなど物理媒体)、アプリなど複数の要素を分解して考慮する必要があるが、各要素を為替証書郵送方式と比較して検討することは、CBDCのユニバーサル性の検討の際にも有益だと考えられる。
※1 引受(郵便局・ポストの設置)、料金、配達(原則1日1回、配達期限、地理的な配達義務地域)等が郵便法、同法施行規則等により定められている
※2 為替証書と現金との交換にはゆうちょ銀行窓口へのアクセスは必要
なお、上記に記載した「ユニバーサルサービス」としてのCBDCの提供のためには、CBDCの制度に参加する民間企業等(特に後述する「仲介機関」)における構築費用の負担の在り方の検討や、必要に応じて財政措置などの検討も必要になると考えられる。
また、これらの観点は、現金を存続させ続けるかどうかという課題とも関連している。現時点では現実的な社会情勢としては現金の存続は必要と考えられるものの、CBDC又は民間電子決済サービスが将来的に十分に普及してユニバーサルサービスとして実現した暁には、現金をなくしていくことの検討や、実態として利用されなくなる社会状況の実現も可能になると考えられる。逆にユニバーサルサービスとして不十分な状態では、現金は引き続き維持・存続させる必要があり、日本銀行も現金に対する社会的ニーズが存在する限りは、現金の提供を維持し続けるとしているところである(*6)。
(2) 民業圧迫回避
(1)の強制通用力の課題とも関連するが、現在民間企業から提供されている電子決済サービス(クレジットカードや〇〇Payなども含めて)はユーザー体験としてはCBDCに類似するものと考えられるため、これらをクラウディングアウトしてしまうまでの強制通用力や機能が、CBDCに必要かどうかという観点もある。なお、日本銀行の各種報告書からは、基本的に上記等サービスの伸長を阻害しないスタンスを取る事で一貫していると見受けられる。
ちなみに、現在の日本銀行の各種報告書(*7)では「仲介機関」が中央銀行とCBDC利用者の間に存在する、いわゆる「二層構造(又は多層構造)」と呼ばれるモデルが想定されており(図1)、CBDCの間接発行を行う「仲介機関」には主に民間企業が想定されている。「仲介機関」の預金により信用創造が行われるが、預金からCBDCへの資金シフトを通じた信用創造への影響などを避けるため、CBDCの機能設計や保有額制限なども、必要に応じて考慮が望まれるところである。
(図1) CBDC発行に関する二層(多層)構造

(3) AML/CFTと匿名性確保の両立
CBDCについては送金手段ともなり得る以上、マネーロンダリング及びテロ資金供与対策(以下「AML/CFT」。Anti Money Laundering/Countering the Financing of Terrorismの略)が必要とされる一方で、現金に類似した一定程度の匿名性も保持すべきという意見が各国の報告書などでも多くみられる。AML/CFTと匿名性確保は二律背反的な要素があるため、これらについては社会の実情を踏まえて、適切な社会実装を行っていく必要がある。
なお、中央銀行がAML/CFTの実務に直接関与することは課題が多く、当該実務は中央銀行以外(民間企業等)が担うのが現実的という指摘もある。この観点でも、上記の仲介機関などが存在し、AML/CFTを担当することには一定の合理性があると考えられる。
ちなみにCBDCは技術的には紙を利用した現在の紙幣とは全く異なったものであり、匿名性の担保は必要では無いという観点もあり得るが、現在の各国の導入状況・実証実験の状況を見ると、一定程度の「弱い」匿名性付与と送金上限額の設定を基本としつつ、仲介機関等による認証を経れば送金上限額が緩和される、といった制度設計の事例が見られるところである(表2)。
(表2) 各国CBDC利用開始時の本人認証方法と送金上限額
国名 | 本人認証方法 | 送金上限額*4 |
バハマ | メール又は対面での認証*5 | 1,500バハマドル/月*5 |
ナイジェリア | 電話番号*6 | 20,000 Naira/日 *6 |
ジャマイカ | 名前、住所、税支払登録番号、政府発行の写真ID*7 | 仲介機関が設定*8 一例で100,000JMD(約88,000円) |
(各種資料より当研究所作成)
*4 仲介機関等による認証により、送金上限額が緩和される
*5 https://www.centralbankbahamas.com/viewPDF/documents/2019-12-25-02-18-11-Project-Sanddollar.pdf
*6 https://www.cbn.gov.ng/Out/2021/FPRD/eNairaCircularAndGuidelines%20FINAL.pdf
https://www.enaira.gov.ng/wallet/get-started
*7 https://boj.org.jm/core-functions/currency/cbdc/cbdc-faqs/
*8 https://ug.linkedin.com/posts/jfjabbo_jam-dex-cbdc-instruction-manual-activity-6975134739355607040
これらの課題は相互に関連性がありかつ二律背反の要素も存在するため、検討時には複雑なパズルの解の探索に似た議論が展開されることとなる。当研究所では関係者の議論を経て、CBDC導入に向けた課題の検討にあたっては最上位の導入の「目的」の明確化が、議論の整理には必要という見解に辿り着いた。
以下3.では現在の中央銀行による「目的」の規定状況を記述し、4.で「目的」を仮設定した場合の課題の整理の一例について詳述する。
3.CBDC導入の「目的」
CBDC導入の「目的」については、最上位の観念であるにも関わらずこれまであまり明確化は行われていない。例えば日本銀行の場合は「期待される機能や役割」という表現で以下が表明されている(*8)。
(1) 現金と並ぶ決済手段の導入
(2) 民間決済サービスのサポート
(3) デジタル社会にふさわしい決済システムの構築
(1)と(2)についてはそれぞれ「民間のデジタルマネーが現金の持つ機能を十分に代替できない場合には」「決済システム全体の安定性・効率性を高める観点で必要であれば」という前提条件が記載されている。(1)については4.で仮置きする「金融包摂・ユニバーサルサービスの提供」という「目的」に重なる部分はあるものの、目指すべき内容の表現というよりは「何かしらの不備が生じた場合の対応方針」といった位置付けと捉えられそうである。(2)についても「決済システム全体の安定性・効率性を高める」ことが「目的」とまでは昇華されていない表現となっている。
(3)についても「デジタル社会にふさわしい安定的・効率的な決済システムの構築に繋がる可能性」などが記載されているが、具体的にどのような状況が「ふさわしい」のかまでは記載されていない。
なお、米国の連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)からもディスカッションペーパー(*9)やワーキングペーパー(*10)などが公開されているが、CBDC導入によるメリット・リスクの分析や、制度設計に関する個別の分析が多く、これらも「目的」が明確に位置付けられた内容とはなっていないところである。
このように、国内外の中央銀行においては、CBDC導入の「目的」が明確化されていないところであり、この点が課題検討を複雑化させる要因となっていると考えられる。
4.CBDC導入「目的」の明確化(試行)
2.で記述したとおり、CBDC導入時の課題は相互に関連しつつ、二律背反の性質も有しており、適切な社会実装を進めていくためには、CBDCを導入するにあたって現在明確化が行われていない最上位の「目的」を改めて明確化することが必要であると当研究所では考えた。
そのため、当研究所では一例として「金融包摂/ユニバーサルサービスの高次元での維持・効率化(以下「金融包摂等」)」を最上位の「目的」とした場合の課題検討を試行的に行った。
なお、金融包摂はジャマイカ(*11)やナイジェリア(*12)のCBDC発行目的にも挙げられているところであり、国・地域によっては一定のリアリティも有していると考えているが、「目的」は当然各国・各地域によって変わり得るものであり、上記の課題検討が具体的に特定の国や地域を想定しての検討ではないことには、ご留意をいただきたい。
(1)強制通用力、ユニバーサルサービスとしての位置付け及び現金の扱い
金融包摂等が目的である場合、誰でも、どこでもCBDCが利用できなくてはいけないという性格上、必要な場面では強制通用力を有していないと目的を達成することが困難となる。そのため、金融包摂等を目的とする場合は強制通用力の付与は検討すべき要件と考えられる。
次にユニバーサルサービスとしての提供を考える必要性が生じるため、ネットワーク・端末・アプリの在り方も含めて金融包摂的な観点からの機能検討が必要となる。デジタルデバイスに必ずしも慣れていない高齢者層の利用についても十分な配慮が必要であるし、場面によっては認知症の方や障がいのある方でも利用可能とする必要が生じ、また、機能的には簡素で必要最低限のものとすることも想定される。ユニバーサルサービスについては、例えば、上下水道、エネルギー供給、放送、通信、郵便などで提供がされているが、それぞれ「ユニバーサル」として求められる範囲が異なる部分があることにも留意が必要である。例えば、郵便は通信よりも、通信は放送よりも一層強いユニバーサルサービスであることが求められる側面がある。
その上で、電気通信事業者に係る制度を参考に、ユニバーサルサービス基金の整備や民間企業による負担の在り方の検討も必要であるが、逆に民間企業の電子決済サービスで十分に政策目的が達成されていると見なされる状況であれば、基金に類した非効率性が内在しやすい制度などは、不要とできる可能性もある。
上記の措置を施してなお、金融包摂等の観点からCBDCの利用にユニバーサルサービスとして不備な局面が残るのであれば、現金の利用は引き続き維持するという社会的な選択が行われると考えられる。
(2)民業圧迫回避
金融包摂等を最上位の「目的」とする場合には、強制通用力の付与は一定程度検討が必要であり、逆に一定の範囲内までの民業圧迫は許容される必要性が生じるが、その程度は最小限に留めるべきと考えられる。例えば、現金をベースとした電子決済サービスが提供されている場合に、現金がCBDCに置換される「だけ」だと考えれば、CBDCをベースとした電子決済サービスも十分成り立つ可能性があり、既存の電子決済サービス事業者への影響は一定の範囲に限定されるとも思われる。このような場合にはCBDCの安定的な運用、セキュリティ確保を考慮しつつも、中央銀行⇒金融機関・決済事業者等⇒ユーザーの枠組みで、民間事業者のUI/UX、付加サービスの工夫に資するような形で、CBDCと民間サービスとの相互運用性を確保するようなフレームワークが構築されることも有用と考えられる。
(3)AML/CFTと匿名性確保の両立
この点については、利用者の利便の観点からは送金上限額が低額に設定されることは好ましくないと考えられるが、他方でAML/CFTの観点からは送金上限額が高額になることは好ましくなく、これらの要請にどこで折り合いをつけるかという点が問題であるように思われる。
金融包摂等を最上位の「目的」とする場合には、一定程度の匿名性を担保する必要性が増すこととなるが、同時に送金上限額は過度に大きな額を想定する必要は無いと考えられる。また、匿名性担保の観点からは、個人が複数の仲介機関にCBDC口座を保有できる制度設計とする場合に「名寄せ」をどのレベルで実施するのかという点は検討する必要があり、複数の仲介機関をまたぐ形での「名寄せ」はプライバシー保護の観点から難しい部分があるとも思われる。
一方で、送金上限額が比較的低額(例えば犯罪収益移転防止法の取引時確認が求められる閾値以下の金額を上限とする場合)ということであれば、AML/CFTについては過度に厳格な対応を求めなくてもよいという方向性が導き出される。
このように、CBDC導入の「目的」を明確化することで、複雑に見える各種の課題について、整理して考察することが可能となる。
5.「目的」変更の柔軟性確保と対応態勢の整備
上記5.で仮に設定をしたCBDC導入の「目的」は常に「金融包摂等」であるとは限らず、今後のイノベーションの進展、内外の経済・社会情勢の変化、国民生活の変化などによって、「国富の創出」「利便性の飛躍的向上」「対外的な競争優位性保持」といったその他の内容に、変わり得るものと考えられる。
例えば非常に大きな「国富の創出」や「利便性の飛躍的向上」が見込まれる場合に、左記をCBDC導入の目的とするのであれば、強制通用力は付与がなくても普及が見込まれ、民業圧迫も一定程度許容する(後に国富全体が増加することで取り返すことができる)といった可能性も考えられる。AML/CFTと匿名性についても、CBDCが取扱う金額の増大が見込まれる場合には、金融包摂等の場合よりも本人認証方式を厳格化したりすることで、AML/CFTを強化する必要性が生じてくると考えられる。
また、グローバルプラットフォーム企業によるステーブルコインについては、金融システムや金融政策の波及効果にも影響を及ぼす可能性があると指摘され、様々な課題への対応が整わない状態では発行されるべきではないという過去の指摘(*13)もされているところであるが、演繹すれば、グローバル企業や海外国家による、国の通貨主権などにも影響を与えうる施策が現れてきた場合には、それに対抗する形で競争優位性を確保することを「目的」として設定することも考えられる。その際は、強制通用力は強めに設定し(民業圧迫も一定程度許容し)、ユニバーサルサービスにおける多少の非効率性も許容すべきと考えられるが、AML/CFTと匿名性については、競合施策の状況に応じた検討が必要となる可能性もある。
上記ではCBDC導入「目的」を「金融包摂等」から「国富の創出」「利便性の飛躍的な向上」へ変更を行った場合、対応措置としてはほぼ真逆の方向性が導き出されることが示したが、近年のIT技術の加速度的な高度化などに鑑みると、CBDCの導入「目的」は一度設定したとしても、変更が必要となる可能性が高いことが予想される。
他方で、CBDCの導入は社会全体を巻き込む決済システムインフラ更新の取組であり、多数のステークホルダーが歩調を合わせる必要のある大事業である。現在の日本の民間銀行等の基幹システムの更改タイミングなどに照らして考えた場合、CBDCの導入には数年~10年単位の時間が必要になると考えられるが、CBDC導入「目的」変更の柔軟性確保と、長期にわたる決済システムインフラ更新の着実な推進をいかに両立させていくのか、この時間軸のギャップを埋めていくというアジャイル・ガバナンスの組み込みが、CBDCに関係する全てのステークホルダーに求められるところである。
そのためには、直接のステークホルダーである政府や日本銀行、民間銀行や金融関係者だけではなく、広くメディアや国民全体がこの国家的大事業の「目的」変更が十分にあり得るのだという予見を持ちつつ、ステークホルダーに対して(場合によっては国民自身に対して)も求められる対応が変わり得ることについて「寛容性」を持つことが、今後のCBDC導入に向けて必要になると当研究所では考えるところである(図2)。
(図2) CBDC導入「目的」、関連「課題」と対応態勢、決済インフラ更新の関係

(1)Libra構想の公表直後の議論の参考として、リブラ研究会「リブラの正体 GAFAは通貨を支配するのか?」(日本経済新聞出版社・2019)参照。
(2)「中央銀行デジタル通貨に関する実証実験について」(2023年2月17日)https://www.boj.or.jp/paym/digital/dig230217b.pdf
(3)中央銀行デジタル通貨関連公表資料https://www.boj.or.jp/paym/digital/index.htm
(4)中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組みhttps://www.boj.or.jp/paym/digital/dig230217c.pdf
(6)「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会中間整理」(2022年5月13日)https://www.boj.or.jp/paym/digital/rel220513b.pdf
(7)脚注6など
(8)日本銀行「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」(2020年10月9日)https://www.boj.or.jp/paym/digital/data/rel201009e1.pdf
(9)“Money and Payments: The U.S.Dollar in the Age of Digital Transformation”(2022年1月)https://www.federalreserve.gov/publications/files/money-and-payments-20220120.pdf
(10)“Working Paper Series - CBDC and financial stability” (2023年2月)等https://www.ecb.europa.eu/pub/pdf/scpwps/ecb.wp2783~0af3ad7576.en.pdf
(11)https://www.sanddollar.bs/about
(12)https://enaira.gov.ng/assets/download/eNairaDesignPaper.pdf
(13)日本銀行「決済のイノベーションと中央銀行の役割―― ステーブルコインが投げかけた問題 ――」(2019年12月4日)https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2019/data/ko191204a1.pdf
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本提言に関する一般的なお問い合わせは、下記までご連絡ください。
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 プロトタイプ政策研究所
Email: public-inst.contact@aplaw.jp
(2023年4月28日)
※表記統一のため、一部字句修正(2023年5月31日)
主な執筆者・意見提出者
研究会メンバー及び研究員
※順不同
執筆者
落合 孝文
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
シニアパートナー 弁護士/第二東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特別招聘教授
プロフィール
クロサカ タツヤ
株式会社 企 代表取締役
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授
プロフィール
瀧 俊雄
株式会社マネーフォワード 執行役員 グループCoPA
サステナビリティ担当/ マネーフォワード総合研究所長
プロフィール
小泉 誠
デジタルリテラシー協議会 事務局/福岡地域戦略推進協議会(FDC)フェロー/一般社団法人Q-STAR 量子スキル標準策定委員 主査/慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所 研究員
プロフィール
宮田 洋輔
株式会社ポリフレクト代表取締役社長
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東京大学大学院経済学研究科 教授/東京大学マーケットデザインセンター センター長
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一橋大学大学院法学研究科 教授
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Airbnb Japan株式会社 弁護士・日本法務本部長/
日本組織内弁護士協会理事
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京都大学大学院法学研究科
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桃尾・松尾・難波法律事務所
パートナー弁護士
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株式会社日本総合研究所 プリンシパル/大阪公立大学研究推進機構 特任教授
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谷崎 研一
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
弁護士/パートナー
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平山 達大
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
弁護士
プロフィール
外部有識者
廣瀬 明倫(Overstep株式会社 代表取締役/株式会社マネーフォワード Public Affairs Officer)
板倉 陽一郎(ひかり総合法律事務所 パートナー弁護士 第二東京弁護士会)
高口 鉄平(静岡大学学術院情報学領域 教授)
森 亮二(英知法律事務所 弁護士 第一東京弁護士会)