政策提言・意見書 一覧
2023年10月10日
統計情報の活用を含むデータ利活用に向けた政府のガバナンスと業務改革の必要性に関する提言
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
プロトタイプ政策研究所
提言No.0004
テクノロジー
1.問題意識と基本的な視点
1) 政府がデジタル技術を利用した公共サービスの整備を進める中では、従来より実施されている統計の整備・利用や、EBPMの推進も含めた、社会福祉や雇用、地域活性化、サステナビリティなど様々な社会課題の解決に向けてのデータ利活用が必要となるが、政策立案にデータが示されていない場合も多い。
2) 政府におけるデータ利活用は、以下の2つの利用法に大別ができる。
a) 政策課題の把握や政策立案、政策の効果測定等のために、データを用いる【分析的利用】
b) 行政サービスの利便性向上のために、行政機関相互でデータを連携し、申請や手続の手間の最小化や紐付け誤りの類を防ぐ(*1)【手続的利用】
個別の手続等を念頭においた各論が主ではあるが、b)手続的利用の対応が進められている一方で、a) 分析的利用については十分に議論がされていない。しかし、a) 分析的利用がデジタル化、データ利活用に向けた社会基盤になることも踏まえ、議論を早急に進める必要があると考えることから、本稿では a)分析的利用に焦点を当てて議論する。
3) データの分析的利用に際しては、政府においては、集計された統計のみならず、ミクロデータを活用することでより詳細な分析や因果関係又は相関関係の推定等が可能になる期待がある。また、携帯電話の位置情報や消費、決済の履歴など民間企業等が保有する様々なデータについても、コロナ禍での対応でも見られたように、政府が適正に活用することに対する期待も高まってきている。
4) 他方で、データ利活用に当たっての基本的な課題が解決されていない。政府内における統計やアンケートの集計前(個票)データから、業務記録データや申請データの取扱いに至るまで、政府内には様々なデータが存在するが、データの取扱いのルール、それを遵守するための組織、データガバナンス、システムが十分に整備・統一されていない(*2)。
5) その結果、単一の省庁等の中ですらも、部局や課室ごとでバラバラに、保守的な管理・運用が行われており、データの有効な利活用が図られていない。ましてや、行政機関を跨いだ活用や、国・自治体間の連携、民間データの取得・利活用については散発的な事例にとどまる実態がある。
*1 政府のデジタル原則における「ワンスオンリー原則」などが典型。デジタル臨時行政調査会での議論も踏まえて、その後継会議体(本提言発表時点での公表情報からは必ずしも明確でない)におけるベースレジストリの検討などが着実に進展することを期待する。
*2 統計法、個人情報保護法、公文書管理法等の法令が存在するものの、ルール・ガバナンス・システムを一体として、個人情報、営業秘密等の様々な視点での留意点を踏まえつつも、データ利活用を進められるようにするための枠組みは用意されていない。
「政策プロセスのアジャイル化に向けたデータ整備のあり方に関する調査研究報告書」株式会社インテージリサーチ(令和5年3月)、経済産業省委託事業(https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2022FY/000186.pdf?fbclid=IwAR0Gp7VhFI7ftyKF-X4YQ3XZkjIJX8kcM30BIWugMx8ynTe01idjR2naE7c)
2. 対応の方向性
分析的利用に向けて上記1・3)及び4)で述べた政府が自ら収集・生成するデータの利活用を進め、これを通じて社会課題の解決、産業競争力強化を実現する前提として、まず政府におけるルール、組織の整備、データガバナンスとデータ利活用のためのシステムの整備とを併せて進めるべきである。その際、まずは政府としての戦略策定以降に発生する「将来」のデータに焦点を当て、データの収集・生成、保管、政府を主体とする利用のための情報連携、分析等の利活用等業務のあり方を含めた対応を検討し、業務改革を実行すべきである。
いずれの点についても、社会、技術の環境変化も踏まえて、柔軟にデータガバナンス、システム、体制の見直しができるよう、設計の当初のみならず運用後も改善及び方針変更を行うアジャイル・ガバナンスの視点を取り入れて準備をすることが重要である。
1) 政府横断的なデータガバナンスの確立
a) 統計法に基づく個票データの行政組織内での2次利用など、法的根拠を明確に整備しつつ横断的に取り組める領域から、利活用のあり方、規律の整備、データガバナンスなどを政府横断的に整理すべきである
b) 中期的には、個別法に基づき収集される業務記録や、統計法等の法令の枠外で行われているアンケート調査の結果などを含む横断的なガバナンスをする必要がある
2) データベース、分析基盤の整備
a) 上記のデータガバナンスの整理結果に基づいて、適切に様々な種類のデータの蓄積及び取扱いが可能なデータベースや分析基盤を整備する必要がある
b) ここでは、最初から完成を目指すことなく、まずは限定的な範囲で試行的に整備を進めつつ、順次拡大するアプローチが妥当である
3) これら取組みを統括、推進する体制の構築と業務改革の実行
a) 例えば、データ監(政府Chief Data Officer)及び政府CDO補佐官、各府省庁CDO(室)の設置などデータ利活用と関連する業務改革を推進する体制を明確化すべきである
b) また、人材の確保が活動の基本になることから、必要となる人材の確保、配置、処遇なども改めて検討がされるべきである
c) 政府全体として適切にデータを収集・管理し、活用するための業務のあり方(業務改革)を検討し、実行すべきである。1)の政府横断的なデータガバナンスの確立や、2)のデータベース、分析基盤の整備は業務改革の方針に基づいて行われる
d) なお、委託事業等において調査を実施する場合でも、予算確保から調査実施まで数か月が経過してしまうこともあり、様々な観点で迅速にデータを取得・分析できるような体制の整備が必要となる
これらの取組みを進めつつ、データ利活用によるメリットを国民にわかりやすく伝えられるようなユースケースを創出し、データ利活用の意義や価値の理解を促進する必要がある。政府文書においては、いわゆるポンチ絵による場合も含めて、多くの国民が読みにくいと感じるものが多く、政府文書を直接読まない国民にもわかりやすく伝達できるよう、十分な工夫を行うことが重要である。
なお、こうした組織、データガバナンスやシステムの整備は、データの手続的利用、その延長線上としてのプッシュ型行政サービスの実現等においても前提となるものである。データの適切な活用こそがデジタル行財政の中核であるとの認識のもと、データを軸とした業務改革に取り組む必要がある。
3. その他の課題・論点(今後の展望)
1) 統計・データのライフサイクル管理体制の構築
a) 統計・データにおいては継続性が重要であることは言うまでもないが、それは、単に同じ調査を続けることを意味しない。社会情勢の変化に応じて調査の方法や項目を見直すなど、統計・データの利用目的に応じた管理を行う体制や仕組みを整備する必要がある
b) 政府の取組みを統括、推進する体制の構築に当たっては、本課題も含む政府のEBPM推進体制のあり方を併せて検討する必要がある
2) 民間保有データの活用の仕組みやルールづくり
a) 本稿での政府内におけるデータガバナンスやシステムの整備は、政府においてデータ取得の法的根拠を整備しつつ、民間から提供されたデータを適切かつ安全に利活用する際の前提となる
b) 加えて、民間企業等が保有するデータについて、民間企業等の利用目的の範囲内外において政府が収集し、利用することについて、個人情報保護法上の課題整理(*3)、法的根拠、契約を締結する場合の雛形(政府と民間企業との間で迅速に締結できる秘密保持契約などの民民の契約関係も参考にしたものを整備)や所要の規程の整備すること、民間サービスのユーザー理解を得るための対応などを検討する必要がある
c) なお、民間企業等が保有する情報において、営業秘密その他の個人情報に限られない論点についても、整理を行った上で、政府が安定的にデータ利用を行うためのルールを整備することが重要である
3) データの効果的な可視化、見える化
a) データ利活用の有用性をわかりやすく示す上で、データや分析結果の可視化も重要である。デジタル庁の政策データダッシュボード、横浜市の財政見える化ダッシュボードなどを参考に、データの可視化を進めることも併せて検討すべきである
b) 特にデータベース整備に当たっては、ダッシュボード形式での表示等も念頭にデータ形式や機能の設計、整備を行うことが有用である
c) 米国州政府が民間団体に助成金を配分する際に、助成金の75%以上をエビデンスが確立されたプログラムに配分するよう、連邦政府が義務付けした事例等も政府の議論で紹介されているが、EBPMを推進するためのインセンティブ設計として政策的な後押しも検討されるべきである(*4)
*3 政府及び民間事業者双方の説明責任を果たす観点を考慮して、根拠規定を整備することも有益であるが、個人情報保護法における、データ利活用と保護とを両立するための個人情報保護法の課題についても検討を進めており、別稿において整理する予定である。
*4 「海外におけるEBPMの事例とエビデンス集作成について」内閣府経済・財政一体改革推進委員会EBPMアドバイザリーボード第1回資料5(2020年10月27日)(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/ab1/20201027/shiryou5.pdf)
4. おわりに
本提言は、従前からプロトタイプ政策研究所内で議論をしていたものであるが、今般、政府においてデジタル行財政改革の推進が表明され、「デジタル行財政改革会議」の開催が決定されたことを受け、各論点についての問題提起を行う目的で発表したものである。今後、上記会議又はその他の場面での議論の進展も踏まえ、必要に応じてより具体的な提言を行うことも検討している。
お問い合わせ先
本提言に関する一般的なお問い合わせは、下記までご連絡ください。
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 プロトタイプ政策研究所
Email: public-inst.contact@aplaw.jp
(2023年10月10日)
主な執筆者・意見提出者
研究会メンバー及び研究員
※順不同
執筆者
落合 孝文
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
シニアパートナー 弁護士/第二東京弁護士会所属
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特別招聘教授
プロフィール
クロサカ タツヤ
株式会社 企 代表取締役
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任准教授
プロフィール
瀧 俊雄
株式会社マネーフォワード 執行役員 グループCoPA
サステナビリティ担当/ マネーフォワード総合研究所長
プロフィール
小泉 誠
デジタルリテラシー協議会 事務局/福岡地域戦略推進協議会(FDC)フェロー/一般社団法人Q-STAR 量子スキル標準策定委員 主査/慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所 研究員
プロフィール
宮田 洋輔
株式会社ポリフレクト代表取締役社長
プロフィール
東 博暢
株式会社日本総合研究所 プリンシパル/大阪公立大学研究推進機構 特任教授
プロフィール
國峯 孝祐
國峯法律事務所
弁護士
プロフィール
渡部 友一郎
Airbnb Japan株式会社 弁護士・日本法務本部長/
日本組織内弁護士協会理事
プロフィール
小泉 美果
フリー株式会社 執行役員 Chief of Public Affairs
慶應義塾大学SFC 特別招聘講師(ジェンダーと社会経済)
一般社団法人電子決済等代行事業者協会代表理事
プロフィール
乾 直行
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
弁護士
プロフィール
外部有識者
植木貴之
株式会社マネーフォワード Public Affairs Officer
本提言の執筆にあたっては、上記執筆者・意見提出者のほか官民の有識者等にヒアリングを踏まえて作成したが、特に以上のメンバーが寄与した。