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2023年5月19日

ジョブ型雇用推進のためのデジタル基盤に関する提言Ver1.0

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
プロトタイプ政策研究所
提言No.0003

  • 人材・組織

ジョブ型雇用推進のためのデジタル基盤に関する提言Ver1.0

本提言書の論旨

人材育成と労働移動の円滑化の必要性

 デジタル技術による産業構造変化をはじめとして、社会全体での人材育成と労働移動の円滑化の必要性が益々高まってきている。Chat GPTなどの生成AIについては、デジタル技術による環境変化を大きく加速させ、産業の転換がさらに進み働き方の変化の必要性がより高まる契機となるものである。これは我が国をはじめ、欧州・米国でも同様の課題感を持っている。我が国においては欧州などにも比して人口減少・高齢化による社会構造変化が早く生じていることもあり、新産業の育成のみならず、既存産業の持続化にも資する政策が整備されていくことが必要である。このような変化の時、個人が自らの選択に基づいて就労確保できる環境が整備され、個人が時代の変化に合わせて自律的なキャリアの形成を図ることで、十分な処遇を受けられるようにしていくことが必要となる。

欧州と米国の動き

 欧州にはデータ戦略の一つとしてスキルの領域が存在している。既に欧州委員会にて2022年からData space for skillsを進めており、デジタルスキル証明書(European Digital Credential for Learning)のプロジェクトを動かしている。卒業証書、成績証明書、その他さまざまな種類の学習成果証明書を、独自に電子発行しEUROパスに保存管理する。こうした技術とデータの動きとともに、デジタル人材育成として2030年までに成人の80%に対し基本的なデジタル技術を育成しようとしている(1)。
 他方、米国は国内の労働移動最適化をデジタルで大きく進める打ち手として、2019年トランプ政権下でLER(Learning and Employment Records)のコンセプトを出して、パイロットプロジェクトを進めている(
2)。主体となっているのは、全米商工会議所による官民連携プロジェクトT3 Innovation Networkである。IBM中心のサイバーセキュリティやWalmartによる小売業でのSkill Based Hiring(スキル証明による雇用の最適化)の実証を実施している。

踏まえた我が国のあり方

 個人が自律的にキャリアを形成する上で、スキル習得と処遇向上・自己実現のためには、習得したスキルが職務(ジョブ)に紐付いており、その職務に基づいて企業等から評価を受けられることが重要である。これは、ジョブ型雇用(職務に基づく評価)とラーニング(スキル習得)の最も重要な関係である。よって、職務実行に必要なスキル内容が定義され、そのスキルを個人が保有していることを証明することが必須となる。ジョブ型雇用とラーニングの関係を正しく実現するためには、この「誰が(=Identified)何ができるか証明され(=Certified)それを確認することができる(=Verified)」ためのスキルレコード(skill record)が重要となり、「労働市場におけるスキルレコードによるマッチング」が重要なコンセプトとなる。このため官民が連携して各種標準化とデータ流通のためのデジタルインフラ整備を行い、デジタル化を進める必要がある。個別企業の個別業務に囚われずにジョブの標準化がされることと、そのジョブに必要とされるスキル標準が同業種の多くの企業にとって参照可能な(reference)レベルで定められていることは、労働市場と人材育成全体で、連携をスムーズにしていくこと、特に情報・データの相互接続性(interoperability)において重要となる。個人を主体として信頼性の高いデータポータビリティを実現せねばならない。

デジタル化で解決が期待されることの例、個人・企業・社会の利益、リスク検討

 一例であるがこのような代表的な課題に対し、デジタル化による解決が期待される。
ⅰ.自身が保有するスキルや経験からどのようなジョブを目指していくべきか個人では自己判断が難しかったのが、デジタル化により労働市場でのジョブとスキルのデータから最適なパスといくつかの妥当な選択肢が提示され、パーソナライズされた情報が提示される。また、キャリアカウンセリングのコストが大きく下がり、より人自身に寄り添えるようになる。
ⅱ.求職者の情報は履歴書・職務経歴書のような自己申告型が中心で、在籍確認や実績確認等のバックチェックコストが大きくかかっていたのが、デジタル化により情報の真正性が担保された状態となり、採用関連コストが下がる。

 また、個人・企業・社会それぞれの視点では次のような利益が想定される。
◎個人は自身のスキルや経験がより客観的に正当に評価され、より適した職に就く機会を多く得られるようになることが期待される。
◎企業は、採用における募集・選定・探索・確認等の各種プロセスにおいて今以上に広くできることが増え、またより重要な部分に対し時間や費用を割くことができるようになることが期待される。
◎社会においては、産業構造の変化に対し流動性の高い形で労働移動を行うことができるようになり、雇用の強靭化、国際競争力の強化につながることが期待される。

 利益が期待できる一方で、プライバシーとセキュリティを企画・設計段階から考慮した進め方(Security and Privacy by Design)が求められ、メリット検討とともにリスク検討も重要となる。例えば、個人のキャリア選択の可能性を広げるためにデータが用いられることは望ましいが、それが望まない形で利用され個人が不当に不利益を被る可能性があることに対しては、リスクを特定した対応が求められるであろう。

我が国(官)の状況

 まさにジョブ型雇用の推進をはじめとして日本全体としてのこうした動きはこれから作られようとしているところだが、こうしたデジタルによる大きな構造転換は短期的には合理性に乏しく、メンバーシップ型雇用×求人情報×履歴書・職務経歴書の既存構造のまま、時限的に必要性に迫られて労働移動の円滑化を進めざるを得なくなってしまう懸念がある。

 採用活動における本人確認と在籍確認情報の受け渡し部分のみに限って、技術検証とプロトタイプ作成はtrusted webで2022年に実施されている(3)。スキル定義に関しては、デジタルスキル標準v1.0が2022年12月にMETIから出されている。また、CSTIでは初めてSIPにて人文系分野が14分野の1つに採用され、「新たな働き方と教育」分野として3年間実施されようとしているところである(4)。こうして、認証等の基本的技術実装の実証、デジタルスキルに関する定義(一部)が進みつつあるが大目的の設定と長期的な枠組み、各々の動きの統合は出来ていないという状況である。

我が国(民)の状況

 2021年度現在においては、主要な人材派遣業(9.2兆円)、人材紹介業(0.3兆円)、再就職支援業(0.03兆円)の3つで約9.5兆円規模の市場が形成されており、人材派遣業が97%を占める(*5)。ただしこれは売上であり、人材派遣業の営業利益率が約1%程度であることを鑑みると人材紹介業も大きな存在感となっている。これらのプレーヤーにより既に各社ごとの情報が各社ごとの取得方法で存在している状況があり、こうした企業をはじめとして、民間団体、専門家組織等が、今までに職務やスキルに関するフレームワークを個別あるいは限定的な目的において無数に作成してしまっている現状がある。それらを全て取りまとめて接続していくことは困難を極め、全てにおいて進めていくことは容易ではない。よって、変化の過渡期においては、進めやすい、もしくは優先的な一部の分野・領域からこれを進めざるを得ないことになると考えられる。「変えないところ」と「変えていくところ」のコントラストが重要となる(図1)。

(図1)

提言

 この「労働市場におけるスキルレコードによるマッチング」をコンセプトとした、ジョブ型雇用を推進するデジタル基盤は、ヒト・モノ・カネ・情報の最後の大きなデジタルインフラである。この基盤を整備していく上では、労働市場で「変えないところ」と「変えていくところ」のコントラストを大きく付けて進めていくべきである。変えるところはデジタル・グリーン(for DX・GX)を中心にはじめ、その上でエッセンシャルワーカーのような社会的に重要な職務にも発展していくことが期待される。
 EUでは「European Year of Skills 2023(*6)」と銘打ってスキル標準を作成しようとしているが、2023年から「スキルレコード元年」とし我が国も取組みを開始すべきである。進めるにあたっては、スマートシティのようにto-beのリファレンスアーキテクチャの設計と、実証を両手で行うことが必要となる。マッチングのあり方に関しては、そのジョブとスキルに関する情報を本人が職場や教育機関をまたいで持ち歩けるようにすること(ポータビリティ)が重要となるであろう。実証設計においては特定の職種を絞って進めることが望ましく、デジタルに関する職種であれば、そのうちUXデザイナーぐらいの単位が望ましい。また、将来的にはエッセンシャルワーカーなどの地域で業務に従事する専門職などへも枠組みを活用していくこともあり得る。
A)デジタル系における実証(例:UXデザイナー、サイバーセキュリティ専門職)
B)グリーン系における実証(例:環境省 脱炭素アドバイザー資格認定制度、等)          C)スタートアップ×地域

 以上のように本ペーパーでは、政権で掲げているデジタル人材育成・リスキリングを5年で1兆円実施すること、そして進めていく労働市場改革に対し、スキルレコードによるマッチングをコンセプトとしたジョブ型雇用推進のためのデジタル基盤を、デジタルとグリーンを中心とした職種から整備することを進めるべきとし、2023年をその元年として官民を横断した取組みを開始することを提言する。

1.はじめに 〜我が国の社会構造の変化と求められる職務の変化〜

  • 我が国では諸外国に先んじた人口減少、高齢化が今後進むが、それにより今までに無いレベルで商圏と産業のギャップが大きくなることが予見されている。例えば、ある地域においてショッピングセンターが無くなったり、金融機関や鉄道などのインフラ産業が無くなったりすることで、そこに従事する人々の雇用も消失する。これは地方にだけ起こることではなく、国交省の500m×500m四方メッシュでの人口減少予測では東京のような大都市にも局地的に起こることがわかっている。

  • また産業構造においても世界全体としてソフトウェア関連サービスの伸びが大きく、我が国においても同様の産業構造の変化が起こっている。労働需要のある産業自体の変化により、ソフトウェアエンジニア等をはじめとして求められる職務が大きく変化している。さらに、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通したサービス変革と業務構造変革によっても、求められる職務の変化が充分に予見される。

  • 以上のような変化が加速していることにより、数年、数十年同じ職務に留まることの不確実性が生じやすくなっている。また、産業構造の変化には労働移動の円滑化が重要となる。このようなことから、社会全体での人材育成と労働移動の円滑化の必要性が益々高まってきている。

2.ジョブ型雇用とラーニングの関係・デジタル化

  • このような変化の時、個人が自らの選択に基づいて就労確保できる環境が整備され、個人が時代の変化に合わせて自律的なキャリアの形成を図ることで、十分な処遇を受けられるようにしていくことが必要となる。そのためには学習の必要性を標榜するだけでは不十分で、処遇向上等の経済的インセンティブと自己実現に繋がることが連動していくことが重要である。

  • 学習と処遇向上と自己実現のためには、習得したスキルが職務に紐付いており、その職務に基づいて、企業等から評価を受けられることが重要である。これは、ジョブ型雇用(職務に基づく評価)とラーニング(スキル習得)の最も重要な関係である。よって、職務実行に必要な学習スキル内容を明示することが必須となる。

  • ジョブ型雇用とラーニングの関係を正しく実現するためには、官民が連携して各種標準化とデータ流通を進め、デジタル化を実現する必要がある。個別企業の個別業務に囚われずにジョブの標準化がされることと、そのジョブに必要とされるスキル標準が同業種の多くの企業にとって参照可能なレベル(reference)で定められていることは、情報・データの相互接続性(interoperability)を確保し、労働市場と人材育成全体で連携をスムーズにしていくために重要となる。企業ごと、人材育成プログラムごとに異なっていては、人材と労働のマッチングに従来どおり大きな機会損失が生じてしまい、労働移動の更なる円滑化に大きな壁となる。ヒト・モノ・カネのうち、ヒトにまつわる分野はデジタル化が最も遅れる一方、大きな期待も集まっている。

3.海外の状況

  • 欧州にはデータ戦略の一つとしてスキルの領域が存在している。既に欧州委員会にて2022年からData space for skillsを進めており、デジタルスキル証明書(European Digital Credential for Learning)のプロジェクトを動かしている。卒業証書、成績証明書、その他さまざまな種類の学習成果証明書を、独自に電子発行しEUROパスに保存管理する。こうした技術とデータの動きとともに、EUでは「European Year of Skills 2023」と銘打ってスキル標準を作成しようとしており、デジタル人材育成として2030年までに成人の80%が基本的なデジタル技術習得を目標とする。(*7)

  • 他方、米国は国内の労働移動最適化をデジタルで大きく進める打ち手として、2019年トランプ政権下でLER(Learning and Employment Records)のコンセプトを出して、パイロットプロジェクトを進めている。主体となっているのは、全米商工会議所による官民連携プロジェクトT3 Innovation Networkである。IBM中心のサイバーセキュリティやWalmartによる小売業でのSkill Based Hiring(スキル証明による雇用の最適化)の実証を実施している。(*8)

4.労働市場におけるスキルレコード(Skill Record)によるマッチング

  • 上記2のようにジョブとスキルの標準化が進むこととデータ流通がスムーズになるデジタル化が進むことで様々な変化が起こるようになるだろう。例えば、転職市場では従来の職務経歴書のようなフォーマットに頼りきらず、求職者の中で最適な人材とマッチングできるようになり、求職者には自身が求める職務に対して要件を満たしているかの差分が明確化となり、どうすれば良いのか明確に把握した上で自己実現を果たせる。

  • このような「誰が(=Identified)何ができるか証明され(=Certified)それを確認することができる(=Verified)」ことが実現できている状態においては、個人が保有するスキルはレコード(Skill Record)として流通し、価値尺度として機能し、スキル労働の対価として報酬が支払われやすくなる。スキルレコードは労働市場において流通し、取引の起点となることになる。そしてこれらのマッチング(取引成立)が労働市場のデジタルインフラの上で行われることになる。これは、人材・労働市場における重要な転換コンセプトだと考える。

  • これまでにおいては「資格」がこれに近い役割を果たすことがあったが、基本的に資格はジョブに対する必要スキルの集合としての証明書であり、個別のスキル単位ではなく認定・発行・流通されてきた。また真正性を担保したりするために偽造難度の高い物理的な証明書を発行したり、それを確認のために提出させたりしてきた。つまり、流通する単位も大きく、信頼できる取引のためにはコストが大きくかかる方法しかなく、故に資格はあらゆるジョブに対し発行されてきているわけではない。これはモノやカネの取引においても同様の課題を社会では抱えてきた歴史がある。これがデジタル化によって労働市場でも、業界横断・スキル単位で即時性が高く、多様に組み合わさることで、様々なマッチングが起こると予見される。これは前述のモノとカネの取引の世界では、既に決済・契約のデジタル取引基盤の議論と検討がなされているように、同じような変化が起こるということである(図2)。

    (図2)デジタル化が取引に与える影響について(*9)

  • ジョブとスキルの標準化とスキルレコードによりデジタル化されていない現状は、代表的には以下のような課題が存在する。あくまでこれは一例であるがこのような課題に対し、デジタル化による解決が期待される

    〇【ジョブ型雇用】
    ⅰ.求職者の情報、履歴書・職務経歴書のような自己申告型が中心となり、在籍確認や実績確認等のバックチェックコストが大きくかかる。
    (デジタル化)情報の真正性が担保された状態となり、採用コストが下がる。

    ⅱ.経験的に人材選定方法が見出されていない職務(特にデジタルのように先端的なもの)では、実際にその職務に就いている人間以外には、採用判定を行う難易度が高い。

    (デジタル化)ジョブに対するスキルレコードで判別ができる部分が多くなり、パーソナリティのような部分のみ人事担当が判定する。

    〇【ラーニング】
    ⅰ.どこまでスキルを学ぶとどのようなジョブや給与が得られるのか、というゴールが曖昧なままラーニング内容が提示されている。
    (デジタル化)ジョブに必要なスキルが労働市場の実績を基に示され、ジョブまたはスキル単位での給与水準がデータで参照できるようになる。

    ⅱ.自身が保有するスキルや経験からどのようなジョブを目指していくべきかの自己判断が難しく、またキャリアカウンセリングの現場でも深くヒアリングとコミュニケーションが必要となる。
    (デジタル化)労働市場でのジョブとスキルのデータから最適なパスといくつかの妥当な選択肢が提示され、パーソナライズされた情報が提示される。また、キャリアカウンセリングのコストが大きく下がりより人自身に寄り添えるようになる。

  • したがって、ジョブの標準からスキル標準を導出し、ジョブとラーニングの連動性を保ちつつ、ジョブ型雇用・ラーニングの双方の視点でスキルレコードが重要となる。また、標準自体も継続的にアップデートする枠組みを構築しなければならない

  • しかし現実には、企業や民間団体、専門家組織、行政機関等が、今までにこうした職務やスキルに関するフレームワークを個別あるいは限定的な目的において無数に作成してしまっている現状がある。それらを全て取りまとめて接続していくことは困難を極め、全てにおいて進めていくことは容易ではない。また実際には経験的に雇用側もラーニング側も継続的に改善を重ねた結果、現状の仕組みでも大きな問題は抱えていないという業界・職種もあるだろう。よって変化の過渡期においては、進めやすい分野・領域、もしくは優先的な一部の分野・領域から進めざるを得ないだろう。

  • ただし決して悲観的になる必要はなく、こうしたデジタル化・スキルレコードのコンセプトは、デジタル分野やグリーン分野のような先端的な職務こそ、未整備な中でスピーディーに実装ができる可能性が高いということにこそ着目すべきである。また、今後、地域社会でも一層重要である職務(エッセンシャルワーカー等)にも展開されていくことが期待される。

5.ジョブ型雇用推進のためのデジタル基盤(To-Beで目指すべきコンセプト)

  • ジョブとスキルの標準化、スキルレコードの実現においては、ラーニングとジョブを横断して描いた労働市場全体のアーキテクチャの設計と、業務等で得たスキルなどを含めた個人にまつわる情報を個人が信頼性を有する形で持ち運べる(データポータビリティ)ようにするデータ連携基盤が重要となる。

  • 今後の議論のために図3を提示した上で、下記のようなポイントも示しておく。

    (図3)

  1. 個人が学習を通してどの程度スキルを習得できているかを把握したり、学習を行う環境やコンテンツを提供したりするシステムを総称してラーニングマネジメントシステム(LMS)と呼ばれる。こういったシステムを通してスキル標準に則ったデータ収集と管理が実現されることとなる。

  2. 現在既に多く展開されている人材・業績・労務管理系のシステムも、ジョブ標準に基づいてデータ収集と管理が実現されることとなる。

    ジョブの評価として必ずしも構造化・正規化されていない、通常であれば組織の中で閉じて流通している情報のうち、例えばそのジョブに対するスキルの影響度のような、ジョブとスキルの相関を表すものが初期的には重要な情報として求められる。ラーニングにおいては、ペーパー試験のように学習結果を測る方法が一律に客観的に可能なものは少なく、その学習項目についての習熟度や習得度を人が評価することが一般的である。例えば、教育現場の教師による評価、生徒同士での評価をする等が挙げられる。これは各組織の中に閉じて流通してしまっているのが現状である。労働現場においてもこのスキル習得が評価されることも重要である。

  3. ジョブの評価として必ずしも構造化・正規化されていない、通常であれば組織の中で閉じて流通している情報のうち、例えばそのジョブに対するスキルの影響度のような、ジョブとスキルの相関を表すものが初期的には重要な情報として求められる。ラーニングにおいては、ペーパー試験のように学習結果を測る方法が一律に客観的に可能なものは少なく、その学習項目についての習熟度や習得度を人が評価することが一般的である。例えば、教育現場の教師による評価、生徒同士での評価をする等が挙げられる。これは各組織の中に閉じて流通してしまっているのが現状である。労働現場においてもこのスキル習得が評価されることも重要である。

    職務に見合ったスキルを有することについて、自ら情報を管理しつつ持ち運べる仕組み(ポータビリティ)が必要になる。学歴や職歴といった基本情報や業界・職種別の資格・スキルの標準認定情報のデータマネジメント機能や認証等を担保する仕組みが必要となる。

  4. 職務に見合ったスキルを有することについて、自ら情報を管理しつつ持ち運べる仕組み(ポータビリティ)が必要になる。学歴や職歴といった基本情報や業界・職種別の資格・スキルの標準認定情報のデータマネジメント機能や認証等を担保する仕組みが必要となる。

  • 実現に向けては、スマートシティ等の実現に向けて行ってきた我が国含めた各国の学びからも、アーキテクチャ設計と実証の両手で進める設計が重要であると考える。こちらも今後の議論のためにポイントを以下に示しておく。

    〇人材育成と人材市場を横断して検討可能な有識者を集め、ヒアリングや試し書きを重ねて、まずリファレンスレベルでのアーキテクチャの初期案を作成し、現在の状況を整理し、検証ポイントを洗い出す。
    〇検証可能性(テスタビリティ)を重視し、ラーニングとジョブの標準化と関連するデータ収集が容易で、ステークホルダーの協力が得られやすい職務(ないし職種単位)を特定する。
    〇その職務においてラーニングとジョブを横断して検討可能な有識者を集め、ジョブとスキルの標準案と個別のアーキテクチャ案を作成する。
    〇同時に、ステークホルダーの協力を得ながら、実際のその標準に関して、学習と企業における活躍・評価の情報を基にマッチングが可能かを実証する。
    〇結果に基づいて、その職務に対する標準と個別アーキテクチャの見直しを行いながら、リファレンスレベルへのフィードバックを行い、必要に応じて次のレベルでの実証を行う。同時に、他職務への展開可能性と示唆を得る。
    〇上記について、アジャイルな考え方で圧倒的なスピードで実施し、理想的には1つだけではなく複数職務を検証し、できるだけ多くの職務を包含できるリファレンスモデルを目指す。

6.技術的可能性・プロトタイプの検証(Trusted Web)、リスク検討の重要性

  • このような労働市場の取引基盤に関する技術的可能性や運用の検証については、我が国においては、内閣官房デジタル市場競争本部にて実施されているTrusted Web推進協議会にて、実証がこれから進められようとしている。Trusted Webは、デジタル社会における様々な社会活動に対応するTrustの仕組みをつくり、多様な主体による新しい価値の創出を実現することを目的として検討が進められている。

  • 「個人の就業等における属性情報の管理・証明」というユースケース(*10)で検討が進められているのは以下のような課題と技術的可能性、プロトタイプに対してである。また直近では「令和4年度補正 Trusted Web の実現に向けたユースケース実証事業」として4月から公募が開始されている。(以下、『Trusted Web ホワイトペーパーver2.0』からの引用)

    〇課題:採用企業は応募者本人や本人に関するリファレンス提供者について、本人確認や、現職・前職企業の在籍確認などを行うにはハードルが高く、確認手法の信頼性の担保には課題がある。また機微な属性情報については、採用企業にとっても、その取扱いに対する信頼性を高め、これら関係者が安心して自らの情報を提供できる環境を整えることが求められている。

    〇技術的可能性とプロトタイプ:W3C 標準である Verifiable Credentials[VC] を用いて技術的可能性を検討している。プロトタイプはシンプルながら「データが確認された状態 で選択的に渡す・受け取れること」を世の中に分かりやすく「見せて」訴求できるようにし、実際にブラウザベースで、Trusted Webの4つの機能を兼ね備えたシンプルなものを作り、初めてTrusted Webの「見える化」を試みている。

  • このユースケースの発展型として本人確認情報のようにスキルレコードを渡す・受け取るということが考えられ、今後も技術的検証は進めていくことが期待される。

  • このデジタル基盤・スキルレコードを整備していくにあたっては、Trusted Webの取組みをはじめとした、プライバシーとセキュリティを企画・設計段階から考慮した進め方(Security and Privacy by Design)が求められ、メリット検討とともにリスク検討も重要となる。例えば、どこまでをデータとAIのようなアルゴリズムによって自動化することを良しとするのか、人権を侵害するようなケースを防ぐ仕組みが実装されているか、特定の個人を識別可能な情報かどうか、またその場合は正しく管理されているか、個人が望まない時に速やかに情報のオープンとクローズが可能になっているか、等の様々な検討が必要である。個人のキャリア選択の可能性を広げるためにデータが用いられることは望ましいが、それが望まない形で利用され個人が不当に不利益を被る可能性があることに対しては、リスクを特定した対応が求められるであろう。

7.現状課題に対する短期的なプロジェクトイメージ

  • 以上のように中長期的なコンセプトと技術的可能性・リスク検討の重要性について述べてきたが、実際の世の中の変化はそのように直線的に進む訳ではなく、現状課題を解決することと、中長期的な姿の双方を結びつけながら進んでいくことになる。また、非連続な技術開発により突然その世界が近づくこともある。

  • ここでは、現状抱える課題を解決しながらも中長期的なコンセプトに繋がっていくと考えられる、短期的なプロジェクトイメージを提案する。
    〇【前提】図4のように現状は行われており、雇用側は求職者の実際のスキルと経歴に対して確認することにコストが大きくかかっていることに課題がある。

    ①あるジョブに対象を絞ってプロジェクト設計を行う。まだ求人数が少なくこれから伸びていく可能性が高い職種が望ましい。また、雇用側と人材育成側のステークホルダーの連携と協力が取れるジョブであることも重要。

    ②そのジョブ標準の仮説を作成する。大まかなレベル(ジュニア・ミドル・シニア等)を分け、ディスクリプションを定め、そのスキル標準を定める。この時、シニアよりもジュニアの方が当然スキルを類型化しやすいため、ジュニア中心に実証設計することが妥当である。応じて、ジョブに沿った雇用側の求人と、その必要なスキルを保持している者(または学習すれば応募が可能ということを知り学習した者)の情報を第三者が収集し管理する。よってこの第三者は人材育成と人材紹介を兼ねた座組みが望ましい。

    ③その情報に応じて、マッチング(取引成立)まで運用を行い、雇用側と求職側の結果を測る。なお、この①から③は、求職者を従業員、雇用者を人事と置いて、社内で検証することも可能である。

  • なお、本ペーパーの作成にあたりヒアリングした中では、UXデザイナーを取り巻く環境としては、既に業界をリードするような企業でも採用難度が非常に高く、ジョブとスキルの定義がこれからであり、雇用側の各社での連携を取ろうとしている議論がなされているという話もあった。こうした職種を限定した中で各ステークホルダーと連携してプロジェクトを実施していくことが想定される。また、地域的な枠組みを活用することもあり得る。以下に想定される3つの類型を提示する。
    A)デジタル系における実証(例:UXデザイナー、サイバーセキュリティ)
    B)グリーン系における実証(例:環境省 脱炭素アドバイザー資格認定制度、等)
    C)スタートアップ×地域

  • また、ジョブとスキルの標準のイメージとして図5を示しておく。シンガポール教育相の下で発足したSkills Future Singaporeが作成したもの(*11)で、Software EngineeringのジョブアーキテクチャとSoftware Engineerのジョブディスクリプションとスキルの標準が記載されている。

(図4)

(図5)注12のSkill Frameworkより抜粋

8.デジタル化による個人・企業・社会への利益と求められる適応

  • 個人は、自身のスキルや経験がより客観的に正当に評価され、より適した職に就く機会を多く得られるようになることが期待される。また、個人が望まないときは自身の情報を開示しない、という選択肢も得られるように整備されることが重要である。企業や労働市場がジョブ型に移行していく中で、より個人が個別の所属組織に頼らずに活躍ができるために、自分自身にてキャリアデザインを行うノウハウを持ち、ラーニングを行うことが必要となる。そのため、個人に対して以下のような支援の強化が求められる。
    〇これまでの新卒一括採用・終身雇用の雇用慣行の中で、キャリアデザインという考え方を持たずに育った個人が取り残されることがない様、基礎的なレベルからの支援。
    〇さらには、キャリアデザインを行おうとする個人に対する、伴走支援者との対話等をはじめとした、情報収集を行うための支援。
    〇その上で、自己学習や教育サービスによるラーニングの支援、企業内研修、業界団体や公的セクターによるラーニング機会等の拡充による支援。

  • 企業は、採用における募集・選定・探索・確認等の各種プロセスにおいて今以上に行えることが増加し、またより重要な部分に対し時間や費用を割けるようになることが期待される。また、社内人材に対する配置転換に関しても同様の効果が期待される。そのためにも、まず自社内においてジョブ型雇用に即応した人事戦略の仕組みを整備することが重要である。また、上述のデジタル分野のような先端的な職務から先んじて、企業をまたいでジョブとスキルの標準化を進めていくことが求められる。この標準化を進めるにあたっては、企業間での競争性を維持しながら進むべき道に対する協調を行うことは一企業の判断として容易ではなく、国による場作りや支援と連携しながら進めていくことが必要となるであろう。

  • 社会においては、産業構造の変化に対し流動性の高い形で労働移動を行うことができるようになり、雇用の強靭化、国際競争力の強化につながることが期待される。また、個人の働き方が所属組織に囚われなくなる中で、企業を起点にして提供されていた年金、健康保険その他の社会保障及び労務関連の手続を個人が行えるようにすることが望まれる。官民の社会保障費への拠出割合は変えずに個人が享受できるメリットを保ちつつ、個人が主導権を持って容易に手続を行える枠組みの整備が求められるであろう。これまでの終身雇用を目指すモデルでは、企業が個人に代わって差配を行うことが合理的にも思われたが、ジョブ型雇用への移行がなされる中では、個人が安心して社会生活を送れるよう、個人を起点として社会保障等の労務に関連する諸手続へのアクセスを確保する事が重要となる。

9.提言

(図6)

  • この「労働市場におけるスキルレコードによるマッチング」をコンセプトとした、ジョブ型雇用を推進するデジタル基盤は、ヒト・モノ・カネ・情報の最後の大きなデジタルインフラである。この基盤を整備していく上では、労働市場で「変えないところ」と「変えていくところ」のコントラストを大きく付けて進めていくべきである(図6)。変えるところはデジタル・グリーン(for DX・GX)を中心に始め、その上でエッセンシャルワーカーのような社会的に重要な職務にも発展していくことが期待される。

  • 政府の方針として掲げているデジタル人材育成・リスキリングを5年で1兆円実施し、進めていく労働環境整備に対し、スキルレコードによるマッチングをコンセプトとしたジョブ型雇用推進のためのデジタル基盤を、デジタルとグリーンを中心とした職種から整備することを進めるべきである。2023年を「スキルレコード元年」とし、官民を横断した取組みを開始することを提言する。

(1)https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP232246

(2)A white paper from the American Workforce Policy Advisory Board Digital Infrastructure Working Group “Learning and Employment Records”
https://www.commerce.gov/sites/default/files/2020-09/LERwhitepaper09222020.pdf

(3) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/trusted_web/pdf/trustedweb.pdf

(4)https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/pdf/230201besshi4.pdf

(5)矢野経済研究所 人材ビジネス市場に関する調査(2022)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3118

(6) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP232246

(7) https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP232246

(8) A white paper from the American Workforce Policy Advisory Board Digital Infrastructure Working Group “Learning and Employment Records”
https://www.commerce.gov/sites/default/files/2020-09/LERwhitepaper09222020.pdf

(9) デジタル市場に関するディスカッション・ペーパー

https://www.meti.go.jp/press/2020/01/20210108002/20200108002-1.pdf

(10) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/trusted_web/pdf/trustedweb.pdf

(11) https://www.imda.gov.sg/-/media/IMTalent-Portal-Revamp/3-Guidances/Skills-Planning/SF-ICT/ICT-Navigation-Tool-2020.pdf


お問い合わせ先

本提言に関する一般的なお問い合わせは、下記までご連絡ください。

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 プロトタイプ政策研究所

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(2023年5月19日)

※表記統一のため、一部字句修正(2023年5月31日)

主な執筆者・意見提出者
研究会メンバー及び研究員

※順不同

本提言の執筆にあたっては、上記執筆者・意見提出者のほか官民の有識者等にヒアリングを踏まえて作成したが、特に以上のメンバーが寄与した。