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政策提言・意見書 一覧

2024年4月18日

NTT法の在り方に対する提言

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
プロトタイプ政策研究所
提言No.0007

  • 情報通信

1.NTT法の概要

 NTT法(正式名称は「日本電信電話株式会社等に関する法律」)は、かつて国有企業であり、その投資により資産が形成されているNTT持株会社(以下、「NTT持株」という)やNTT東西(以下、「NTT法適用会社」という)を規制する法律である。当該法律は、NTT法適用会社について、事業内容(2条)、責務(3条)、株式保有義務(NTT持株会社は4条、NTT東西は5条)の規定、NTT持株については、取締役の選解任(10条)、定款変更・合併等・剰余金の処分(11条)、毎事業年度の事業計画(12条)の規定、NTT東西については定款変更・合併等(11条)、毎事業年度の事業計画(12条)、重要な電気通信設備の譲渡等(14条)についての認可規制、そして監督命令(16条)、報告徴求(17条)の規定を設けている。

2.今後のNTT法において着目すべき公正競争確保

 従前よりNTT法は改正の必要性が議論されており、本日時点(2024年4月19日)では、改正NTT法について衆議院本会議で可決され、参議院での審議がなされている。当該改正法は、研究成果の開示義務の撤廃や、外国人役員を3分の1未満まで認めること、役員選任・解任に関する総務相の認可を事後届出制にするよう緩和することを目指しているが、最も重要な点は附則において今後「NTT法廃止を含めて検討する」と記されたことである。これを受けて、これまで検討が進められていた情報通信審議会(電気通信事業政策部会 通信政策特別委員会)では、改正NTT法が可決された後、今度はNTT法の廃止も含めた詳細な議論が行われると見込まれる。その際の論点は多岐にわたるが、本提言ではその中で電気通信事業の関係者間での公正競争との関係で何が問題とされているのかを確認する。

3.公正競争に関する論点整理

(1)通信自由化において事業拘束されたNTTの経験

 通信事業における市場支配力の源泉は通信設備にあり、その支配力はボトルネック性、すなわち通信設備が共用を前提としており、その共用される設備を保有することによって強い競争優位性が発生する。通信自由化の一環として民営化したNTTは、日本電信電話公社(電電公社)時代に敷設した日本全土に渡る通信インフラ投資を継承し、一般的な事業会社では到底獲得できないほどの資産を当初から保有したため、通信業界で極めて市場支配的な立場にあった。このため、NTT法はNTTに対して規制を加え、競争事業者との公正競争を実現することを目的としている。

 これに対しNTTは今般、こうした規制があるとグローバル競争に劣後し、ひいては国益も害すると主張している。例えば、NTT東西はユニバーサルサービス義務として、固定電話回線の電話網(PSTN)への加入を求められた場合はメタル回線を敷設しなければならず、山間部等のルーラル地域に一からメタル回線を敷設・維持するという大きな経済的負担を強いられていた。これは令和2年NTT法等改正によって、そのような場合に代わりに携帯電話網(ドコモ回線)を利用して役務提供することが認められたことで、一応の緩和をみている。逆に言えば、令和2年までこれほどの問題が未解決のままだったことから推察できるとおり、不合理な責務や要件ですらそのまま残置されてしまうほど、従来のNTT法はNTTそのものを強く拘束する性格を帯びた規制であり、NTT自身が規制の緩和・撤廃を求めることは一定の理解ができる。

(2)NTT法維持の要否に係る関係者間での見解の相違点

 では、NTTが求めるように規制を緩和するとどうなるのか。これについては、NTT法を改正・廃止しても公正競争は維持できるとする立場と、できないとする立場に分かれる。

 維持できるとする立場は、NTT法を改正等しても電気通信事業法があれば問題は生じないと主張する。NTT法が定めるのはNTT持株と東西の役割、責務、業務範囲といった外形規制にとどまり、具体的な競争政策については電気通信事業法が担っている。電気通信事業法は、シェアが高く市場支配力を有する事業者(市場支配的事業者)に対し、市場支配力を濫用して公正な競争を阻害することがないよう、不当な競争を引き起こすおそれがある行為をあらかじめ禁止している(事前規制)。具体的には、NTT東西、NTTドコモに対し、指定電気通信設備の(NTT以外の事業者からの)接続の業務に関し知り得た情報の目的外利用・提供、特定の事業者に対する不当な優先的・不利な取扱い、製造業者等への不要な規律・干渉を禁止している。このように、公正競争の実現を具体的に担っているのは電気通信事業法なので、NTT法が改正等されたとしても公正競争は実現できる、よってNTT法の改正等は問題ない、というのが一つ目の立場である。

 他方で、できないとする立場は、現在の電気通信事業法だけでは公正競争の維持には不足であると主張する。この立場からは、電気通信事業法は次項で述べるとおり公正競争に係る一定の対策を講じているものの、NTTが前述のとおり電電公社から継承した日本全土に渡る通信インフラ投資により通信業界で極めて市場支配的な立場にあるという出自の特異性を明確に法目的として含んでいるにとどまるため、NTT法でNTTへの外形規制にこそ競争政策の重要な意味があると主張する。また関連して、仮にNTT法を緩和・廃止するのであれば、同様の法目的を持つ規制を電気通信事業法の中に新たに設けるか、またはNTT法の外形規制に類似する内容を含む新法を制定する必要があると主張する。

(3)設備競争とサービス競争

 ここまで見てきたとおり、NTT法が緩和・廃止されてもなお電気通信分野の競争を維持できるのか、仮に同法が緩和・廃止された場合に電気通信事業法のみで同分野の競争政策が維持できるのかが、市場競争の視点から考えるNTT法を巡る議論の根幹となる。では、現在の電気通信事業法は、どのように公正競争を想定しているのか。

 NTTの保有する電気通信設備を他の電気通信事業者(いわゆるNCC)が利用するための接続ルールは、固定系(電話回線及び光ファイバ等)と移動系(いわゆるMNO)が、それぞれ整備されている。固定系の設備はNTT東西により保有されており、利用者料金については(保障)契約約款を総務大臣に届出することが、接続規制としては接続約款の総務大臣の認可や接続会計の整理、網機能提供計画の届出・公表義務が求められており、接続条件は厳重に規制されている。また、移動系についても、利用者料金に関するプライスキャップ規制が定められており、接続規制としては接続約款の総務大臣への届出や接続会計の整理が定められている。こうした電気通信事業法の規制は、電気通信設備を有する事業者間の競争のうち、とりわけ強大な設備を有するNTTに制限を課すことから、いわゆる「設備競争」を目指していると考えられる。

 この設備競争に係る規制は、移動系よりも固定系により強く課されている。それは前述で触れた電電公社以来の歴史的経緯から、回線のみならず局舎等の設備を有するNTTへの規制が必要であることによる。他方で、移動系はNTTドコモのみならず、他の携帯キャリアも規制対象となっている。これは、移動系は電波を用いるために固定系よりも設備の割合が相対的に小さいこと、携帯電話サービスは電電公社時代からスタートしているものの事実上NTTが民営化されてから需要が拡大して市場が形成されたこと、それらを総合してNTTは移動系において固定系ほど競争優位性を有していないことなどに起因する。そのため移動系は固定系よりは厳しい義務が設定されておらず、NTTとNCCの設備競争が一定程度実現している。

 一方、NTT東西に課せられた設備の投資や利用への規制による公平なインフラの確保により、その上位層で提供されるサービス間での競争が促進されることへの期待がある。これが「サービス競争」であり、今般の設備競争に係る政策はサービス競争の促進を目的にしているとも言える。この場合、NCCがNTT東西のネットワークへの接続を求めた場合に適正な条件で応諾することをNTT東西への義務としており、サービス競争の比率が強まるほど、NTT東西の光ファイバー網は公共財的な性格を帯びていく。こうした二つの競争の状況を踏まえ、NTTとしては設備投資に課せられた「義務と制約」という二つの足かせを外し、投資の自由度を高めること、またサービス競争により自由な状態での参加を求めると考えられる。

 他方で、NTTの電気通信設備に接続する立場にあるNCCとしては、NTT法と電気通信事業法の両方により競争環境が維持されてきたが、NTT法が廃止されると設備を独占的に保有するNTT東西との交渉が容易でなくなるため、固定系に関する規制緩和には反対の立場をとっていると考えられる。

(4)必要とされるインフラ設備の変化を考慮した公正競争確保に向けた着目点

 しかしながら、こうした競争の前提は徐々に変化しつつもある。これは、NTT法の廃止と維持の両方の立場において、指摘されうる。前者については、移動系の通信サービス市場はすでに飽和しつつあり、MNO間の競争はアプリや決済等のサービスに移行しはじめているところ、従来の設備競争やそれに関連づけられたサービス競争の範疇に収まらないことから、NTT法が市場競争に与える影響は小さいというものである。

 確かにアプリや決済などの非通信分野は、すでに消費者にとって重要なサービスである。また、非通信分野はそもそも電気通信事業者に限らないプラットフォーム企業等が大きなシェアを有しており、金融・ITに関する別途の規制も整備されつつある中で、必ずしも電気通信事業に着目した競争評価をとりわけ行う必要性が高くないとも思われる。

 ただし、電気通信事業者の売上は未だに通信分野の方が非通信分野(アプリ・決済等)よりも大きい。また様々な代替手段が存在するアプリ・決済に比べ、通信サービスは代替手段に乏しいため、大規模障害や自然災害によって通信が遮断されることによる市民生活への影響を考慮すると、インフラとして堅牢な構造が必要であり、こうした要件はそもそも公正競争よりも優位にあるとの考え方もある。

 また固定系・移動系に共通して業務規制、料金規制がかかっているが、固定系は従来の制度的レガシーが存在するため、極めて厳格な内容になっている。このため、固定系、移動系のいずれの通信事業者も、今後投資を行うことにより通信網を整備することになるにもかかわらず、固定系に関する規制が移動系に比して厳格なため、固定系を整備する事業者がむしろ競争上劣位になる可能性もある。極論すれば、NTT法の存在が、結果的にNTTによる移動系の基盤をなすような固定系の全国的な設備投資を困難なものにしているとも考えられる。今後、NTTによる固定系設備の投資遅滞や縮退が発生すれば、回線接続を通じて、NTT以外の事業者の移動系も含めた通信サービス提供に悪影響を及ぼす可能性も否定できない。

 一方、NTT法廃止に反対する立場では、5G以降の通信インフラでは固定系が改めて重要な設備となるため、NTT法はむしろこれまでよりも設備競争の観点から重要となるという考え方である。具体的には、5G以降の無線通信はより高い周波数帯が割り当てられ、電波の伝達が(低い周波数帯に比べて)悪く、送受信できる距離が短くなりやすい。例えば、利用者Aと利用者Bが通信を行う際、両者はそれぞれスマートフォンのような無線通信端末を利用しているものの、実際に通信を構成しているのはほとんどが光ファイバー等の有線区間であって、無線が担う部分はごくわずかになるということである。それゆえ、ボトルネック設備を有するNTTの存在が競争を大きく左右するというものである。

 ただし現時点で5Gの設備投資のうち、いわゆるミリ波等の高い周波数帯の投資は進んでおらず、経済合理性の観点からもより電波が飛びやすいサブ6以下(特にプラチナバンド)の価値が短期的に高く見える。そのため現時点では、固定系はあくまでも固定系のネットワークとして、移動系もまた別のネットワークとして、投資・維持がされている。こうした検討を進めるためには、ミリ波等のさらに高い周波数の帯域での、固定系・移動系が連携したインフラ整備の方針が示される必要があり、将来的な情報通信政策や電波政策が政府から示される必要がある。

4.主要論点

 以上の認識を踏まえ、プロトタイプ政策研究所では、以下を今後の主要論点として挙げ、引き続き検討が必要であることを指摘する。

  • NTT法・電気通信事業法の二重の事前規制と電気通信事業法による事後規制の枠組みをどのようにするか。この際にはNTT法における会社組織に関する事前規制の維持の要否や、電気通信事業法における固定系に関する規制の合理化と、さらに電気通信事業法における事後規制の強化の要否が問題となる。

  • NTTの固定系設備は、前述のようにボトルネック性を有していること、またこれまでの通信政策においてNCCへの接続義務を強いているなど公共財としての性格を一定程度有しているが、仮にNTT法廃止によってよりNTTが経営の自由を獲得し、民間企業としての純粋性が増した場合、そうした公共財の維持・拡大を担う(担わせる)べきか。

  • 5G以降に固定系と通信系を組み合わせて通信インフラを整備し、それを利用するための競争環境をどのように整備することが適切か。電波伝搬等の物理特性を踏まえ、今後より合理性なインフラ整備が必要となるが、その際の設備競争とサービス競争のデザインをどのように実現すべきか。

以上

主な執筆者・意見提出者
研究会メンバー及び研究員

※順不同

大森 隆平(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業 弁護士)

本提言の執筆にあたっては、上記執筆者・意見提出者のほか官民の有識者等にヒアリングを踏まえて作成したが、特に以上のメンバーが寄与した。